小島信夫と保坂和志

 昨日の朝日新聞の読書欄をみておりましたら、「たいせつな本」という
コラムを作家 保坂和志さんが書いておりました。
 保坂さんは、小島信夫さんを尊敬していて、ことあるごとに小島さんの
作品に言及します。
 昨日の新聞では「寓話」についてふれていたのですが、この小説を読む
醍醐味については、「遅読の私が、異例にも2日かからずに読んだ。
しかし読み終わると何がかいてあったかまったく憶えていない。長大な
交響曲にどっぷりと浸かっていても、音が去ったあとにその再現ができ
ないのと同じなのだ。小説とはまさに『読む時間』のなかにしかない。」
 
 「寓話」に限らず、小島信夫さんの小説というのは、読み手にとっても
能力がためされるように思います。小生は、長い小説が、もともとは
好きでありますので、「別れる理由」「寓話」 など、読みにくい小説を
こりずに購入していたのです。
それにしても保坂さんの立派なところは、次のくだりです。
「 『寓話』は87年初版のままほとんど読まれずに絶版となった。
 私はこの小説の素晴らしさを証明するために仲間を募って個人出版する
ことにした。文字入力と校正を十数人で分担し、若いみんながその作業に
心酔した。
 『寓話』はまさに21世紀に読まれる小説だと確認した。06年3月に
完成し、半年後に増刷することができた。」

 先月に、新潮文庫で「アメリカンスクール」が重版されまして、店頭に
姿をあらわしていますが、このことも、保坂和志の存在なくして、実現は
しないと思われます。