先日に届いた「本の雑誌」5月号の特集は「そのタイトルに決まるまで」という
ものでありました。もちろん、本のタイトルのことでありますね。
この特集のなかに「わが社のタイトル自慢!」という欄がありまして、そこには
10社の編集者さんが、自慢のタイトルをあげていました。
当方が目にしたことのあるタイトルもあれば、そんな本もあるのかと思った本も
ありです。
最初にあがっているのは扶桑社のもので、「インパクト最強」とコメントがつい
ていまして、なかなかこの書名を口にだすのは憚れるというもの。タイトルが
よかったのか、今では講談社文庫に入っていますが、最初は新聞に広告掲載を
しようとしてもタイトルそのものが原稿審査にかかってしまって、タイトルを出さず
に広告をしたとのことです。その広告を見てみたいものでありますね。
ということで、この本はタイトルはスルーすることにして、この特集では唯一冊
当方も読んで、あとで購入もした本のことを話題にです。
どういうわけか、この本はよく売れているのだそうです。編集者は、この本が
よく売れているのはタイトルのおかげでもあると思っているようで、このタイトルの
成り立ちを書いていました。
「この物語の主役である明石家の原形は、藤野さんが文芸誌『群像』に発表し
た短編『散骨と密葬』に登場します。新平・英子の夫妻と独身の三兄弟です。
その後、明石家がどうなったか気になってお書きになったのが、『文學界』に
掲載された短編です。こちらの短編、当初は『思い出の散歩道』などおとなしい
タイトルにする予定だったのを、藤野さんのご友人Iさんのひと言で『じい散歩』
に決まったそうです。」
藤野千夜さんは、芥川賞を受けたのですが、コミカルな作風ですから、
これは純文学とかこちらはというかき分けをすることもなしで、文芸誌に初出の
ものを、ベースにして『小説推理』に連載してしまい、単行本にしたらベストセラー
になってしまうのでありました。
「じい散歩」というタイトルが、この作品を読むハードルを下げているのは間違い
なしですが、今の若い人たちは「じい散歩」の元となった「ちい散歩」などのこと
は知らないでしょうね。