これを書くまでに

 図書館から借りている藤野千夜さんの「編集ども集まれ!」を読んでいまし

た。なんとか最後のページにたどりつきましたが、これは好みの作品でありま

して、いろいろな切り口があって、いろんな読み方ができる作品であります。 

編集ども集まれ!

編集ども集まれ!

 

  藤野さんが編集者として勤務していた会社をやめざるを得なかったのは

1993(平成5)年だそうです。漫画がずっと好きで、その編集者をやめたいと

は思っていなかったでしょうが、自分のなかに抱えているもうひとつ譲ること

のできないこととの間で、結果として編集者の仕事を失うこととなってしまう

ことになりです。

 失業者となってから小説の新人賞に応募する生活に転じ、なんとか受賞

したのが95年、それから芥川賞を受けるにいたったのが2000年とのこと

です。

 この作品を雑誌(「小説推理」)に連載をはじめたのが2015年からあし

かけ二年でありますから、それだけ重たい主題であったといえるものです。

この作品を読みますと、そんな重たさは、あまり感じないのでありますが、

この時代においても藤野さんのような人には生きにくいのに、時代は30年

も前の男性中心の世界の話であります。

 そんな読み方をしていきますと、これはちょっとかわった青春物語となり

ます。

 もちろん作品の舞台は漫画編集部で、主人公は漫画大好き人間であり

ますから、それに絞って読みますと、これに登場する漫画家さんの作品を

読んでみたくなること請け合いであります。

 しかも会社編集者と編集プロのメンバーと、他社との付き合いなども

含めて漫画編集の業界内輪話もたっぷりであります。

 たとえば、最終章におかれている、次のようなくだり。

「売れている作品があるおかげで、あまり売れていそうにない作品を本に

することができる、とか。それが自分の仕事だと任じている人さえいた。

青雲社でいえば、つげ義春を柱にマニアックな季刊漫画雑誌を編集して

いる薬師寺さんがそうだったし、よその版元から移ってきて、見事な文芸

書のラインナップを作り上げたK山さんも、はっきりそのタイプだった。」

 K山さんこと小山晃一さんについて書いているくだりですが、日本文芸

社にこの方が在籍しなければ、この会社とは縁がなかったでありましょう。

 このあとには、福武書店からでていた「海燕」の編集者とのやりとりの

ことが書かれているのですが、「これから一年間は、まず『海燕』に小説を

見せてください、とルールっぽいことを教わると、普段どんな小説を読むん

ですか、ああ、金井美恵子さんですか、みなさんそうおっしゃいますね、と

いった、のどかな話」とあります。

 この時代に日本文芸社から(ということは、とりもなおさず小山さんの

編集で)「金井美恵子全短編」とか「本を書く人読まぬ人」などがでたので

ありますね。

  藤野さんも金井美恵子さんが好きであるのかと思ったのですが、この本

のタイトル「編集ども集まれ!」は、藤野さんが尊敬する手塚治虫のコミック

のタイトル「人間ども集まれ!」から借りているようであります。