本日に手にしている本には、次のようにありましたです。
「わたしがこうして執筆を続けている間も、パレスチナの状況はますます悲惨の
度合いを強めている。第三国から医薬品を運ぼうとした船がイスラエルの空挺部
隊の襲撃を受けて拿捕され、大勢の死傷者が生じている。パレスチナで生じて
いることは(よくいわれるような)宗教対立ではなく、19世紀以来の植民地
主義のもっともグロテスクな帰結である。だが、そこで人々が体験を強いられて
いる苦痛と屈辱に対し、私は何ごともすることができず、いつまで幸福の王子の
位置に留まっている。・・・わたしにとりあえずできるのは、他人の苦痛を前に
なんとかシニシズムに陥らんとする自分を制止し、無感動から自分の身を守る
ことでしかない。」
手にしていた四方田犬彦さんの「人、中年に到る」に収録の「わたしの眼の前
で苦しんでいる人たちについて」という文章の一部を引用しました。この本は
2010年刊行でありまして、四方田さんはパレスチナに知友人が多いことも
ありまして、このことに関してはイスラエルを批判することになりで
べつなところには、次のようにあります。
「イスラエルのユダヤ人が抱いている憎悪は、本来はパレスチナ人に向けられ
たものではない。西欧社会において歴史的に差別されてきたことに由来する
特殊な感情であって、その長大な流れの最終章がアウシュヴィッツである。・・
行きどころを失ったユダヤ人の憎悪のエネルギーは、パレスチナの地にもと
から居住していたアラブ人に向けられることになった。西欧において自分たちに
与えられてきた迫害と屈辱を、自分たちよりもはるかに弱い立場にあるアラブ人
相手に反復してみせること。
こうして中近東を舞台に半世紀以上にわたって、憎悪の応酬劇が繰り返される
こととなった。(「憎悪と軽蔑について」)
その昔に「栄光への脱出」なる映画がありまして、日本でも話題になりまし
た。当方は小学生くらいでしたが、テーマ曲がヒットしたことと、ナチスの
ホローコーストを逃れて建国する話ということで、めでたい話だなと思った
ものですが、そんな簡単なものではないとわからせてくれたのは、中東戦争で
ありましたです。
戦争がなければ、その現実を見ようともしなかったのかも。