そういうことであったか

 昨日に引き続き「海鳴り」35号から話題をいただくことになりです。

 どうしても、山田稔さんの書いたものに話がいってしまいます。昨日にも

言及しましたが、今回のタイトル「本棚の前で」というのは、2019年の

31号にあるタイトルを踏襲しています。

 山田さんの書棚にある本から話題をとったエッセーとなります。35号では、

耕治人さんと小田仁二郎さんの本が取り上げられています。

 エッセーで最初に話題となるのは耕治人さんの「全集」でありますが、この

本を電車のなかで読んでいる人の書いた文章が、冒頭で引用されます。

秋葉直哉さんが「ぽかん」9号に発表した「孤独な星の光り」という文章の一節

となります。

 秋葉さんが電車のなかで耕治人の本を読んでいたら、「向かいの席に座っていた

とおぼしい老人に声をかけられた。黒っぽい縁の眼鏡に、中折れ帽。目をあげた

一瞬そんな姿が残って」とありまして、その老人は、本を読んでいた秋葉さんに

耕治人が若い人にまだ読まれているなんてうれしいよ」といって「ぽんと肩を

叩い」たというのです。

 「ぽかん」9号には、そのような秋葉さんの文章があったのかと、あわてて

この号を取り出してくることにです。この号は、ちょうど小沢信男さんが亡く

なったあとに刊行となって、追悼特集のようなものでありました。

vzf12576.hatenablog.com なるほど、秋葉直哉さんの文章があって、そこには電車のなかで声をかけ

られた逸話が記されているのですが、声をかけたのがどなたであるのかは

書かれていませんでした。

 今回の「海鳴り」35号の山田稔さんの文章には、その老人とは私でとあり

まして、そういうことであったのかと思うことです。

 それにしても秋葉さんは、奥ゆかしいことでありまして、電車の中で本を

読んでいたら、向かいに座っていた山田稔さんに、いまどき耕治人を読んで

いるなんてうれしいことなんて書かないのですね。

 こういうのがマイナーな作家愛好者の流儀であるのでしょう。

(後記 qfwfq 様  にご指摘いただいたように、声をかけた中折れ帽子の

老人が、山田稔さんであるというのは、当方のはやとちりであります。秋葉

さんと山田さんは、同じ路線の利用者であったのかと思ったりもしたのです

が、当方のそそかっしさの証として、そのままにしておきましょう。)