NHK教育TVでやっている「100分de名著」の10月は谷崎潤一郎を取り上げ
ています。今月の放送はすべて終わったようでありますが、当方が録画して
見たのはその2回目にあたる「吉野葛」のときでした。
(他の三回は、「痴人の愛」「春琴抄」「陰翳礼賛」でありました。)
まったくうまく読むことができてはいないのですが、「吉野葛」という作品
は、花田清輝によって失敗作ともいえるような傑作といわれていて、それから
後藤明生もこの作品へのオマージュ小説を書いていますので、1931(昭和6)年
に発表されて90年も経過して、現在では谷崎作品では重要なものの一つとなっ
ています。
vzf12576.hatenablog.com この作品は直線的なお話ではありませんし、「失敗作ともいえる傑作」であり
ますので、一筋縄ではいかないのですね。だからといって、その部分を読んでい
たら心地良くて、まったくなんの疑問もわいてこないのであります。
ところが、さらっと最期まで読んでみたら、これがうまくつながらないのであり
ますよ。
そこが谷崎のしかけでありまして、いろいろと埋め込まれている逸話が複層的
な意味合いに取れるようになっているのでした。歴史や歌舞伎といったものに
明るくない読者である当方は、ほとんど字面しか読み取ることができないのです
ね。このあたりが「吉野葛」を読む醍醐味で、あれこれと知るに従って、読み方
に深みが出てくるのではないかと思って、再読を重ねるのですね。
「その折母の言葉を聞くと、『ああ、あれがその妹背山か」と思ひ、今でもあの
ほとりへ行けば久我之助やあの乙女に遭へるやうな子供らしい空想に耽ったもの
だが、以来、私は此の橋の上の景色を忘れずにゐて、ふとした時になつかしく
想ひだすのである。」
吉野へといって、妹背山をみた時に、子どものころに母と一緒に来た吉野での
ことを想いだして、その時に母から妹背山を教えられていたことと、成長して歌
舞伎をみるようになって知る「妹背山」が重なってくるのでありました。
歌舞伎の妹背山と吉野の妹背山をともにイメージできる人は、どのくらいいるの
でしょうね。