読むのは文庫本で

 今月の文庫新刊で一番話題となるのは(当方と同好の人たちにとって、坪内

祐三さんの「文庫本を狙え!」が継続していましたら、間違いなく取り上げら

れましたでしょう。)は、野呂邦暢さんの「ミステリ集成」でありましょう。

 他の文庫の新刊にあまりめぼしいものがないので、今も「文庫本を狙え!

が続いていたとしましたら、かなりの頻度で中公文庫が登場することになり、

また坪内さんは悩むことになったのではないかな。

 野呂邦暢さんというと、文春文庫に代表作が収録されていて、最初のまとまっ

た作品集も文藝春秋社からでていたのですが、もちろんそれは編集者 豊田さん

がいた時代で、そのあとは文藝春秋社とは疎遠になっている感がありです。

 小説集成は文遊社から、随筆コレクションはみすず書房から刊行となり、作品

数が少ないせいもありまして、これを合わせて揃えると全集となります。若くし

て亡くなったのですが、本当に没後には光があたることになりました。

 今回の文庫本に収録された作品は、もちろん上記の文遊社とみすずの本から

選ばれていて、当方はこれはすべて読んでいるぞといいたいところですが、なに

せ集めるのに忙しく、読む時間が乏しいものですが、たぶんほぼ未読であります。

とにかく揃えて、読むのは文庫になってからというのがお恥ずかしいのでありま

すが、このように「文庫オリジナル」というのは大歓迎です。

 たぶん、野呂邦暢の世界をお好きな編集者さんが、企画をだしてそれが通った

ものでしょうが、これまでまったく文庫になっていない「ミステリ」というのが、

これのみそであります。

 「ミステリ」とあるので、「愛についてのレッスン」の中からも収録かなと思い

ましたが、これまでほとんどアンソロジーに収録されることのない文章ばかりで

ありました。こういうのは、けっこう大胆なことに思えます。

 八本の小説に、八つの随筆を合わせて一本になり、これに堀江敏幸さんの解説が

ついていますので、この千円という価格は割安感を感じます。(ブックオフとかで

普通に格安で入手可能なものが、えらい高額のプレミアム文庫で復活するのは、こ

れに対してうんと割高感ありです。)

 こういう企画には最大限の拍手でありますね。諫早もののような定番と違う野呂

さんの作品で、新しいファンが増えればいうことなしでありますが、その前に当方

もちゃんと読むようにいたしましょう。

野呂邦暢ミステリ集成 (中公文庫)

野呂邦暢ミステリ集成 (中公文庫)

  • 作者:野呂 邦暢
  • 発売日: 2020/10/22
  • メディア: 文庫