明日は返しに

 図書館から借りている本の返却期限がちょっと過ぎてしまいました。読み

かけの本があって、あとすこしで最後にたどり着くと思われたからです。

本日にめでたくたどりついて、これで明日には返すことができます。

 この2週間に5冊借りていて、最後までたどりつけたのは1冊だけですので

成績よろしくありません。結局のところ、読むことができたのは、次の一冊

です。

刃物たるべく――職人の昭和

刃物たるべく――職人の昭和

  • 作者:土田 昇
  • 発売日: 2020/04/13
  • メディア: 単行本
 

 とにかくまじめなみすずの本でありまして、本を開くとページにちょっと小さ

めのポイントで文字がぎっしりです。300ページほどですが、文字数はずい

ぶんと多いことです。

 取り上げられている内容は、知らない世界のことで細部についてはわからない

のでありますが、昭和に亡くなった名工といわれる鍛冶職人と、その職人を尊敬

し、その仕事を後世に残そうと奮闘した著者の祖父と父、それにその跡継ぎと

なって職人さんたちに鍛えられながら、道具店を任されていく著者と、その時代

の職人さんとの交わりです。

 特に、著者の代になってからは手間ひまかけた仕事よりも、コストに見合った

仕事が求められ、てっとりばやく儲けるほうに流れていくわけですから、職人を

の手仕事の世界は、ほとんど姿を消していくことになります。

 そうした時代に、大工の手仕事はどのように、次の時代にひきつがれていくの

かなであります。

 鍛冶職人の仕事について、次のように書いています。

「ものを作りそれを売って生活する以上、どこまで手をかけてよいものであるか

は、おのずと制限があり、高価とならざるをえぬ域の製品を唐突に提示する自由

も余裕も許されていません。大工や建具屋が購入しうる価格でなければ作っても

売れないのですから、ほどよい良質さは、使用者以上にのみを売る商人が嗅覚を

研ぎ澄まして設定します。評判よく流通させるためには、市場を分析する能力と、

ほどよさの領域を決定する感性が必要です。

 名工品は別格枠であり、設定域外にあるため、技術の出しおしみはせずにすむ

ものの、本来商業上の流通にそぐわぬものです。つまり売れる見込みがほぼない

ものを作ってみるのが、名工らしい域外行為であり、不必要製造という側面を

有します。では売れるはずがないものを売るためには何が必要であるのかとい

うと、実用道具域外にはみ出てしまった製作品が、いかにも消耗、消滅という

道具の運命、あたりまえを回避しているかのごとく思い込ませる付加物です。」

 かくして、名工が作った道具は使われないことが前提となってしまい、桐箱に

はいって鑑賞される骨董品のようになるのですが、土田道具店の三代目さんは、

そのような道具のあり方には批判的で、あくまでも職人さんの手の届くところ

範囲で、使われる道具を提供して、良い手仕事に寄与することをめざすべきと

思っているのです。