林達夫さんの中公文庫収録四冊目は「文藝復興」となります。
- 作者: 林達夫
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 1981/08/10
- メディア: 文庫
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今であれば、何冊かから再編集して収録することになるのが一般的でありますが、
この時代だからでしょうか、それとも林達夫さんだからでしょうか、四冊はいずれも
単独著作を、そのまま文庫化しています。これがいまとなっては珍しいことに思われ
ます。テーマ別にアンソロジーということでは、平凡社ライブラリー版の全三冊が
そうですが、同じようなテーマのものを集めて一冊というのは書かれた時間の幅が
大きくなる傾向にありますが、それとくらべると単独著作の場合は、いくつかの
テーマについて書かれたものが一冊にむりやり収まっているという感じはあるので
すが、その時期にどのようなことに関心を持っていたかがうかがえるのであります。
林達夫さんの場合は、とにかく文章を発表しないのでありますからして、時局に
からむものなどを別にすれば、発表となった文章のほとんどテーマは「西洋文化の
歴史的研究と批判的摂取」ということになります。
この本の序にあたる「著者の言葉」というところでは、次のように記しています。
「この書のなかで読者が読まれるであろう諸篇は、著者が1920年から1928年にかけて
書いたものである。この長い期間、著者はその仕事の一つとして西洋文芸思潮の史的
研究に従事していたが、いろんな事情から仕事はなかなか捗らず、わずかに三、四の
問題についてやっと『覚書』を作ることが著者のなしえた精一杯の仕事であった。」
林さんは1896年生まれとなりますので、24歳から32歳くらいにかけての書かれた
ものとなります。それにしても書かれてからそろそろ百年にもなろうという文章で
あります。このなかで初出が一番古いのは「ギリシャ悲劇の起源」でして、これの
発表は1922年の「思想」です。
それにしても、百年近くも昔の文章を読んでいるという感じにならないのがすごい
ことでありますね。