馬齢を重ねるのもよろしか

 鹿島茂さんの「子供より古書が大事と思いたい」の増補ページを見ていま

したら、次のくだりがありました。フランス古書店での話となります。

「年収一億円以上の人でないと敷居が高いのがカミール・スルジェ書店。

ここは、『フランスで一番高い店』と呼ばれたシャルトルのスルジェ書店から、

娘が独立して造った超高級書店の一つで、最低百万円からの品揃えである。

 これと同じような格式の店が並ぶのが、右岸の高級住宅地のフォーブル、

サントレノ通りだが、なかでも一軒といったらブレゾ書店に止めをさすだろう。

 というのもブレゾ書店は、『パリで一番高い店』として知られ、『客を選ぶ店』

として有名だったからである。げんに、私も三十代に初めてこの店を訪れたと

きには、慇懃無礼な番頭から『おととい来い』という応対をされて心に深い傷

を負った。」

 鹿島さんは1949年生まれですから30代ということは、80年代のことにな

りますね。誇り高いパリの古書店では紹介もなしに飛び込んできたアジア人

の青年は、ちゃんとした客には見えなかったのでありましょう。

 それから30年ほど経過しての話であります。

「ところが、昨年(2012)の正月、どうしてもジョルジュ・バルビエ挿絵、マルセル

シュオップ作の『架空伝記集』を入手する必要があったので、清水の舞台から

飛び降りるつもりでブレゾ書店の敷居を跨いだら、なんとも丁寧な客あしらいを

受け、逆に、拍子抜けしてしまった。こちらが歳を重ねたせいもあるが、店全体も

近代化して、昔のような応対ではやっていけなくなったのだろう。しかし、そうな

ると、昔の傲慢な客あしらいが懐かしくなるから不思議なものである。」

子供より古書が大事と思いたい

子供より古書が大事と思いたい

 

  最初のあしらいを受けてからの30年間で、鹿島さんのコレクションは充実し、

それなりにパリの古書店でも認知されるようになったことが、このようなあしらい

を受ける背景にあるのか、それとも中国富裕層と見間違えられたのかでありま

すね。

 どちらにしても、その昔はちょっとした古本屋は日本であっても、若い兄ちゃん

には敷居の高いものでありました。 

vzf12576.hatenablog.com 最近は、そのような格調の高い古本屋に近づくこともなくなっているせいも

あって、店番をしている方から胡散臭そうな眼で見られることもなしでありま

す。

 若い人にとっては、最近のカリスマ書店員が起こしたセレクト書店に敷居

の高さを感じるかもしれませんですね。そういえば、昔からあるセレクト書店

で当方が何冊か購入したとき、支払いをしたあとで店番をしていたご主人が

ちょっと奥にいって、そこからみすず書房の小さなカレンダーを取り出し、当方

にプレゼントしてくれたことを思いだします。数年前のことで、当方は60代半

ばでありましたか。歳を重ねるのも悪くはないなと思ったことであります。