浦西和彦 編

 昨日に購入した中公文庫「『酒』と作家たち」は、浦西和彦さんの編集になる

ものでした。巻末に浦西さんの解説「雑誌『酒』と佐々木久子」という文章があり

まして、浦西さんのものが気になっていたこともあって、購入することにしたわけ

です。

 浦西さんは、どうされているのかと検索をかけてみましたら、2017年11月16日

に亡くなっていたことがわかりました。新聞などにのったはずでありますが、当方

の目にはつかなかったか、ちょうど二年が経過して、この文庫を手にできたのも

なにかの縁でありますね。

 浦西さんは、関西大学文学部国文科で谷沢永一さんの厳しい指導を受け、その

学統を継ぐ形になりました。谷沢さんが後年に多くの著作を残されたのとは対照

的に、ほぼ書誌学の分野の仕事に専念され、その著作はほとんど見かけることは

ありませんでした。

 浦西さんの存在は谷沢さんの「紙つぶて」で知ることになりです。本にまとめられ

て、当方が目にしたときにはすでに関西大学で教鞭をとっていたようですが、次の

ようにでてきます。

「1979年4月10日 若い芽の成長に期待 岐阜県立坂下高校文芸部の『友樹』

は、第38号(昭和41年10月)の『葉山嘉樹特集』以来、学生のまじめな作品研究

と、指導した教諭浦西和彦の葉山年譜考証の画期的な綿密さとで学会の評判と

なった。」

 浦西さんは1966年谷沢さんの推挙により関西大学助教授となったとありますの

で、自分の教え子が高校教師をしていた時代の業績に言及していることになります

が、けっしてこれは仲間褒めではありませんですね。

 これを記するのに取り出している「紙つぶて」は「自作自注最終版」でありまして、

これは索引がついていますのでありがたし、浦西和彦さんに言及しているところを

チェックしてみました。

 1979年11月25日の「何に役立つかを謙虚に考えぬハリボテ書誌学」に付され

た後年の注に、次のようにありました。

浦西和彦は過去に編んだ書誌の方式から大きく前進し、経験にもとづく新しい

試みとして、『河野多惠子文藝事典・書誌』(平成15年)を著した。菊版六百余頁の

大冊である。

 空前の発案である文藝事典は、河野多惠子の著作である小説およびエッセイの、

長短すべての題名を項目に立て、一篇ごとに書誌を掲げ梗概を略述する。

『カザノヴァ回想録』推薦文や書評、それに対談および座談会またはアンケートな

ども見逃さない。

 ひとりの作家を理解するために、これほど近寄りやすい梯子段がしつらえられた

例は稀れであろう。ガクガクの作家作品論はしょせん一家の見にすぎないが、浦西

書誌には読者の知見を押し上げる働きが見られる。」

 これを読んだだけでもたいへんな仕事だと思うのですが、浦西さんはこのような

仕事を何人もの作家に対して行っているのですから、驚くしかありません。

 それにしても、もうすこし浦西さんについての情報があってもいいのになと思うこ

とです。

日本プロレタリア文学史年表事典

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