めったにないこと

 本日は家人がちょっとブックオフへと行ってみたいと言いました。

これはめったにないことで、もちろん当方に異存があろうはずもなしで、早速に

行ってみることになりです。

 店に入ってみましたら、本日は280(?)円以下の本は半額と案内がでていました。

当方のブックオフでの予算はいつもワンコインでありますから、本日は半額ということ

になりますと、けっこう楽しいことになりそうです。

 時間の関係もありましたので、本日はもっぱら半額対象になるとこの棚をチェック

することになりです。本日に目に入ったのは、次のものでした。

「酒」と作家たち (中公文庫)

「酒」と作家たち (中公文庫)

 

  このようなアンソロジーがでていたのは、まるで知らなかった。これを手にしたの

は編者に浦西和彦さんの名前があったからです。作家たちが「酒」について書いた

エッセイから選んでまとめたものと思っていましたら、これはかってあった「酒」という

雑誌に寄稿されたものから浦西さんが選んで一冊にしたものとのことです。

 「酒」という佐々木久子さんがやっていた雑誌や浦西和彦さんについては、ちょっと

おいといて、まずはこれに収録のものからです。

 川村二郎さんの「『十九年文科』の酒 篠田一士の思い出」という文章がありまし

た。最近は篠田さんについての文章を見かけることもなくなっていますので、これは

思いがけずでうれしいことでした。それも川村二郎さんが書くのですからね。

川村さんは著作数は多いのですが、このようなエッセイをまとめたものはないはずで

ありまして、このようなアンソロジーに収録されなければ、普通には目にすることがで

きないはずであります。もったいないことですが、しょうがないかな。(どれかの本に

ひっそりと収録されているのかもしれませんが)

 「十九年文科」となっていることに反応するかどうかであります。川村さんと篠田

さんはともに「十九年文科」なのであります。もちろん昭和19年に旧制高校文科に

入学した話です。

「昭和19年のことである。・・・戦争の行方にほとんど希望の光が見えなかった時期

である。当方が入ったのは文科だが、この年、全国の高校の文科系は、戦争遂行の

ためには不要の学科として、定員をほぼ三分の一に削減された。しかもそれまで

あった徴兵猶予の特典も剥奪され、18歳になったら兵役に就かねばならなかった。」

 歴史に残る学徒出陣は、その前年昭和18年10月のことですから、その翌年に文科

の学生となるというのは、それだけ早くに兵役につく覚悟を固めることになります。

「篠田もこちら同様、昭和19年に旧制高校文科に入った口である。・・定員削減、徴兵

猶予取り消しという文科に対する迫害は、全国共通だった。そうした事態を単なる

災難と受け取る人は受け取っただろうが、迫害する力に憤りを抱きながら、憤りを噛み

しめ、あえて迫害に耐える心に、大仰に言えば殉教者風な誇りを秘める、といった

執念深い人間もいたのである。篠田は明らかに執念深かった。折にふれては『十九年

文科』と口にし、本来は文科志望だったのに徴兵逃れのために理科に入り、敗戦後

文科に転科した人間を軽蔑した。」

 旧制高校文科生の話であります。戦前に旧制高校へと行くことができた人というの

はどんな人だろうと考えると、もちろん田舎にはほとんどいなかったようなエリートの話

でありまして、普通の人には徴兵猶予なんてなかったのですが、それはさてです。

 「文科志望だったのに徴兵逃れのために理科に入り」というのもありますが、戦時中

はこういうこともあったのでありましょう。当方もその年代の方の話を聞いたことがあり

ますが、一人息子であった場合などは、どうすれば息子を戦争で失わないようにできる

かと親たちがいろいろと知恵を絞ったとのことであります。そういうことも現実にはあり

ましたでしょうね。