あわてて本をさがす

 今朝になって当方がフォローしている国書刊行会のツイートをみましたら、

次のようにありました。

 「【訃報】鼓直先生が先日亡くなられたとのこと。残念です。ラテンアメリカ

文学叢書や世界幻想文学大系にも参画され、あやふやだった弊社の骨格を

形作っていただいたお一人と感じでおります。御冥福をお祈り申し上げます。」

https://twitter.com/KokushoKankokai/status/1121802365252694018

 新聞の訃報欄には「鼓直さん」のお名前はありませんでしたので、そのうち

おっとりで目にすることはできるのでしょう。

 それにしてもおいくつであったのでしょう。鼓直さんがいなければ、当方の

読書生活はよほど違ったものになっていたろうと思いますし、ガルシア・マル

ケスがこんなにも日本で読まれることにはならなかったでしょう。

 それほどラテンアメリカ文学が日本でひろがるのに、鼓訳「百年の孤独

インパクトがあったのですね。ガルシア・マルケスの「百年の孤独」がどんな

に素晴らしい作品であったとしても、翻訳がへぼければ、ファンをつかむこと

は難しかったでありましょう。

 1970年代初めころにスペイン語で書かれた文学を翻訳する人はそんなに

多くないところにもって、ラテンアメリカ文学などを専門にする人はほとんどい

なかったのですからね。

 鼓さんが訳された「百年の孤独」は、当方のオールタイムベスト10に間違い

なくランキングされる作品でありまして、本を読んでいるうちにいつの間にか

夜が開けたという経験をした、ほとんど最後の本となります。

 いつでもすぐに取り出せるところに「百年の孤独」は置かれているはずなの

ですが、さきほどに探してみましたら、新旧二冊の版本のいずれもが見当たり

ません。ほんとばかなことであります。 

百年の孤独

百年の孤独

 

  本日は「ユリイカ」1979年7月号「ラテンアメリカの作家たち」に掲載の

ガブリエル・ガルシア・マルケスの世界」という鼓さんの小文を読むことで

追悼することといたしました。

「百年の時間に圧縮して語られたブエンディーア一族のこの物語は、コロン

ブス以下の航海者や征服者たちによって、新世界の名の下に世界史のなか

に強引に引きこまれたラテン・アメリカの、十五世紀末から今日に至るまでの

戯画化された創世記であり、同時に黙示録でもあるのだ。気楽なタクシー

ドライバーから気難しい批評家に至る多くの読者を獲得しているその神話的

世界は、この読者の知識と洞察の深浅にしたがって、無限にその秘密をさら

け出して彼を喜ばせ、驚かし、楽しませてくれる。」

 気楽で知識や洞察が浅い読者であっても、喜んで、驚いて、楽しむことが

できる小説のを翻訳してくれたのであります。ありがたいこと。