ブッキッシュな世界

 ここ数日はガルシア・マルケスの追悼の意味で、その周辺をうろうろとしています。
ガイドは池澤夏樹さんでありますね。池澤さんは小説家でありますが、当方は池澤さん
の小説には不案内でありまして、もっぱら読書指南役をつとめてもらっています。
 最初に池澤さんの読書指南書を手にしたのは、先日に話題とした
「LITERARY Switch」第2号(1991年7月刊)とか、「読書癖」あたりからでしょう
か。
 「ブッキッシュな世界像」の元版は、1988年の刊行でありますから、当方はこの時代
の池澤さんには、ほとんどなじんでおりませんでした。これが白水社からUブックスで
でることになりまして、この本も手にすることができました。
 先日に池澤さんの発言として、次のものを紹介していました。
「ぼくは非常にラッキーなことに、『百年の孤独』をずいぶんと早い段階で、日本語の
翻訳が出る前に読んでいた。」
「ブッキッシュな世界像」に収録されている「『百年の孤独』の諸相」の冒頭の部分で
次のように明かしていました。
「ぼくは、人の心をとらえてはなさないこの不思議な小説を初めて手に取った、遠い昔
の午後を思い出す。ぼくは、買った本のすべてについてその時の状況を覚えているわけ
ではないが、しかし、この本の場合、事情はいささか違った。
行きつけの洋書店で顔なじみの、いやむしろ畏友というに近い博識の店員氏が、
『ジョナサン・ケイプ』がずいぶん熱心にこの本を売り込んでいるんですよ』といって
ぼくに手渡してくれたのた、英訳の『百年の孤独』のアドヴァンス・エディション、つま
り販売促進のために発売前に主要な書店やマスコミや批評家に配る仮綴じ本だった。
『へーえ、コロンビアの作家ねえ』とぼくは、なにしろこのイスパノアメリカ文学の怒濤
のごときブームのはるか前のことだから、疑わしげな顔で本を手に取った。ぱらぱら見る
と、まあおもしろそうだ。ぼくの関心を見てとった店員氏は、内容紹介を表紙に貼つけた
その愛想のない本を気前よくぼくにくれた。
 それが一九七〇年、つまり鼓直氏による邦訳を新潮社がおそるおそる出すのはまだ二年
先という頃だ。」
 新潮社がおそるおそる出した「百年の孤独」を、篠田一士さんの紹介文を読んで手にし
たのは、刊行されてまもなくでありましたが、当方もおそるおそるでありましたので、
古本での購入でした。