まっとうな読書で

 購読している新聞の広告特集に「リーダーたちの本棚」というのがあり

ます。経営者の方が登場して、影響を受けた本とか座右におく本を紹介して

もらう企画ですが、本日に登場した車谷暢昭さん(東芝の代表執行役会長)

の紹介するものは、普通の本好き(ちょっとインテリ気取りの)にもアピール

するものでありました。

「私にとってビジネスの参考になるのは、ビジネスとは無関係の書物が多い

ようです。哲学や歴史、宇宙や芸術に関する本を多く読んできました。

アメリカのビジネススクールが教えるような経営論はあまり読みません。」

 このような書き出して始まる記事ですが、こう言えるのはよほど自信がある

からでありまして、会社社会で生き抜くためには実用書を読んでいてはだめ

といっているようであります。

「合理主義的な西洋哲学になかなかなじめなかった私ですが、森有正

『経験と思想』を読んでパッと視界が開けました。・・就職活動の際には本書

をテーマに論文を書き、おもしろい学生だと思われたようです。若い時に哲学

書や思想書に触れたことは、私の生き方に大きく影響しています。」

 ここで森有正さんの名前がでてくるとは思いませんでした。この車谷さんは

学部は経済とのことですが、ずいぶんと旧制高校的な学生時代を過ごしてい

たものと思います。

 森有正さんは、エッセイのようなシリーズが筑摩書房からでて、それが話題

になっていましたが、「経験と思想」は手にしたこともありませんでした。

1977年の本ですから、当方はすでに仕事についていて、縁の遠い世界であり

ました。

 今月に入って、以前から気になっていた「森有正先生のこと」栃折久美子さん

を図書館から借りて読んでいたところであります。読んで返さなくてはと思って

いたところに、本日の新聞記事であります。

 栃折さんは、森さんの晩年に日本に滞在中には秘書のような役割を果たして

いたこともあり、親しい関係であったようですが、非常に抑制された筆致により

森さんとのことを一冊にしたものです。これを読みますと、思想家 森さんの人

となりが伝わってくることです。

 栃折久美子さんは、もちろん著名な装丁家(その前は、筑摩書房の編集者)

でありまして、カバーには栃折さんが制作した染色画が使われています。

 栃折さんは、よくもこれを書き残したものであります。

森有正先生のこと