そのせいであるか

  岩波「図書」2月号が届きました。編集後記「こぼればなし」を読んでいまし

たら、「ドイツ出版産業を見聞してきた同僚から様子を聞く機会があり」とあって、

次のようにありました。

「業界第一位の大型書店であるタリア書店のCEO兼共同経営者は、アマゾンに

対抗し、人々を本の世界に呼び戻すためには、自社の利益のみを追求するのでは

なく、業界全体でパートナーシップを結ぶ必要があると言います。」

 アマゾンが小売書店との間で問題となるのは、ドイツも同じようですが、ドイツで

は書籍の流通網が整備されていて、アマゾンは翌日配達が実現していませんの

で、日本よりはもうすこし時間の余裕があるようですが、それでも、日本のように

なったら遅いということでしょうか。

 こういう気持ちが働いてでしょうか、「図書」2月号には「『堀越千秋画集』を

創る」という他社出版物の制作裏話が掲載されていました。出版社のPR誌とい

えば、当方にはあまり興味のない自社刊行物の宣伝を兼ねたような紹介文章が

ならぶようになっていて、これが多いほど読むところがないということになりです

が、こうした文章の掲載は、志の高い出版物を世の中に送り出すに効果ありで

はないでしょうか。

 それはとにかく「堀越千秋画集」とはなんでありましょう。そしてこれを制作して

刊行した大原哲夫編集室とは何かでありますね。

 大原哲夫さんによる文章を読んでいて、次のくだりを見た時に思いあたりま

した。

「私と堀越の出会いは一枚の絵(シルクスクリーン)との遭遇から始まる。1990年

代半ば、私は『バッハ全集』(全15巻小学館)の仕事に没頭していた。」

 小学館で音楽物の企画をしていた人といえばと思って、その先を読みましたら、

このようにありです。

「2001年『武満徹全集』を作るときには、彼に装丁画を頼んだ。この全集は

2003年、造本装丁コンクールで経済産業大臣賞を受賞し、ライプツィヒで行わ

れた『世界で最も美しい本コンクール』に日本を代表して出品された。堀越は、

この受賞を大いに喜び、以後、彼の経歴には経済産業大臣賞受賞と誇らしげに

入れていた。」

 小学館で「武満徹全集」を担当していた編集者さんは、大原哲夫さんという

名前でありましたか。結局、「武満徹全集」を購入することはなかったのであり

ますが、ひどく印象に残る企画物でありました。 

vzf12576.hatenablog.com 大原哲夫さんがどうしても出さなくてはと思って企画した「堀越千秋画集」

でありますが、結局は引き受けるところがどこもなかったようでありまして、

編集室が版元を兼ねるということでの刊行となりました。

「最終的に画集はA4変形、初期作品から2016年最後の作品まで収録作品

598点、オールカラー、総576ページの大冊となった。全編、最高の美術用紙

を使用、かなりの高定価になったが、それでも原価ギリギリに抑えた。」

 このようにあります。もちろん原価のなかに大原さんの働きは含まれていな

いのでありましょう。

堀越千秋画集―千秋千万