六十五年かな

 本日はぱらぱらと「大西巨人と六十五年」を読んでおりました。
 とにかく、こういう連れ合いと六十五年も生活をともにしたというのは、ほとんど
信じられないことでありまして、すごいとしか言いようがないですね。
連れ合いの才能を信じていたとしても、子どもさんの病気と、うちお二人が一人は
幼いうちに、もう一人は四十代で亡くなるなど、単に経済的に苦しかっただけでなく、
家庭的にも不幸なことが続いて、普通であれば暗いトーンになりますが、たんたんと
した記述で、不思議と幸せな結婚生活であったなと思えるようになっています。
 とっても、最近の人にはマネができない、大西夫妻の生き方であります。
 この本も光文社からでているのでありますが、大西巨人さんの創作活動を支えた
光文社のスポンサーシップは、戦後文学の金字塔でありますね。
 ちょうど昨日に届いた「本の雑誌」は、特集が「カンヅメはすごい!」というもので
ありましたが、この「カンヅメ」は、作家をホテルなどに閉じ込めて執筆に専念させる
ことをいうのでありますね。
 光文社もほとんど原稿があがってこない大西巨人さんにしびれを切らせて、カンヅメ
にしたらすこし原稿がもらえるかと思ったとのことで、何度かそれを試みたと、夫人の
文章にありました。
「(光文社の)窪田、浜井編集者は雰囲気を変えたら捗るかと、近所の老夫婦の離れを
仕事部屋に借りる。成果は得られない。或る時は山の上ホテルにかんづめにすると執筆
が捗るのではと目論む。ホテルのエアコンの送風機の音が耳につく。丁度夏祭りの最中
で騒々しく落ち着けない。行った日の夜突然帰ってくる。その後もう一度ニューオータニ
にかんづめであった。窪田、浜井両氏の取りはからいで快適に仕事が進む予定だったが、
七日間滞在しても成果は少ない。巨人にかんづめは意味がない。自家の書斎が一番良いと
本人はもちろん、窪田、浜井両氏も納得して、以後かんづめは話題にならなかった。」
 大西巨人さんの「神聖喜劇」は4700枚で、25年間かかっていますから、1年に
188枚で、一日あたりは0.5枚となりです。もちろん、この間にエッセイなども書いて
はいるのでありますが、これで生活ができれば奇蹟であります。