坪内祐三さんの「文庫本宝船」のあとがきを読んでいましたら、坪内さんがあまり
にも弱気となっているように思えて、思わずエールを送りたくなりました。
あとがきにある一部を切り抜いてみます。
「 旭屋や芳林堂、あるいは銀座にあった近藤書店といった中規模書店は私のことを
とても大切にしてくれました。私の新刊が出るといつも良い位置に平積みされまし
た。そのような書店に支えられてそこそこ売れました。」
べつにベストセラーを狙っているわけではないけど、新刊をだしたら以前であれば
二刷、三刷となったものが、最近はほとんど増刷されないと坪内さんはいってから、
その背景として、上に引用した中規模書店が姿を消してしまったことをあげています。
このくだりを目にして一番感じたのは、支えてくれたのは書店だけではなく、読者
もそうであったのではないかということでした。坪内さんの努力にもかかわらず、
新しい読者は増えず、古い読者は離れていったのかなと思いました。
当方は坪内さんよりもいくから年長のせいもあって、坪内さんがデビューしてまも
なくから、その仕事を見ておりました。特に山口昌男さんとの関係が深いこともあっ
て、坪内さんの著作はデビューから10年ほど、ほとんど新刊で購入しておりました。
初期の著作はずいぶんと刺激的なものが多かったように思いました。
97年が単行本デビューとなりますので、デビューしてからそろそろ二十年をむかえ
ますが、坪内さんのあとがきには「ここ十年ぐらい私の本は初版どまり」とありです。
そういえば、ここ10年は、当方も坪内さんのものを図書館で借りたり、中古本で購入
したりするようになっていました。
「文庫本宝船」は、当方にとってやや久しぶりで購入した坪内さんの新刊となりま
す。基本的にマイナーな文筆家である坪内さんを応援しなくては、当方の趣味にあう
自分より年少の書き手の一人がいなくなってしまうのではという危機感を持ったので
あります。
当方が坪内さんのものに距離をおくようになったのは、坪内さんの文章から権威
主義的な雰囲気をかぎとったのと、このくらいなら、こっちも知っているよと思った
りしたためでありましたが、今回の「文庫本宝船」は、坪内さんとそしてこれを引き
受けた版元のためにも売れてほしいと感じました。
「文庫本を狙え」は、貴重な仕事でありまして、坪内さんの目を通して、その時代
にどのようなシブイ文庫本がでていたかの記録であります。
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