読んでいる本 3

 原武史さんの「皇后考」を読んでいましたら、すこしうとうととしてしまいました。
これはすこし気分を変えてと、併読している辻原登さんの「冬の旅」に手を伸ばしま
した。まずは「皇后考」の読了が先と、昨日までは思っていたのですが、意思の弱い
ことであります。

冬の旅 (集英社文庫)

冬の旅 (集英社文庫)

 残り200ページくらいでありましたが、これは読みやすいので一気に最後まで進む
ことができました。昨日には、この作品には救いがあるだろうかと記したのですが、
この作品は、まったくハッピーエンドとは縁遠いものでありましたね。
 この文庫本の帯には、「変わりゆく 時代の中で、 何が彼を 転落させたのか」
とあるのですが、ひたすら落ちていく小説となっています。落ちていくためには、
落差が必要になりますが、なんとか安定した仕事につくことができて、すこしは落ち
着いたと思ったら、なんとなく足を踏み外してしまうようなことが発生して、下降し
てしまうことになるのですね。
 こうしたことが帯にもありますように、「バブル崩壊新興宗教、大震災」という
時代を背景にして進行していきます。作品の舞台は、ずっと関西圏となっていて、大
震災は1995年のものです。まさに主人公には、これでもかこれでもかというほど不幸
に背中を押されます。
 自分には、このようなことはないだろうと言いきれる人は幸せなのかもしれません。
大なり小なり、皆がこうした不幸に背中を押されているのでしょうが、なんとかそれ
に抗うことができて、ことなきを得、そのときに状況で流されてしまうと、こういう
ことになることもあるということでしょうか。可能性がゼロではないとすれば、可能
性はないとはいえないことです。
 ハッピーエンドで終わる人生のほうが少ないのかもしれませんので、この作品が
ハッピーで終われば、それこそつくりものに思えてしまいます。この作品には、不思
議なリアリティがあります。
 そう思いつつも、気になったのは固有名詞の扱いでありまして、作中人物の出身高
校とか大学が、実際にある学校の名前を使っているのには、小骨がささったような
感触をもちました。その人物が善人であれば問題はないのでしょうが、犯罪を犯す場
合には、特にそう感じます。主人公の出身高校は実在の高校名ですが、そのあとに
進学した専門学校は、「伏見区にある専門学校」という具合になっています。これで
あれば、どうして高校は実在のものとしたのでしょうね。そのほうが現実感が増すの
は事実でしょうが、このことがちょっと読後感を悪くもすることです。