スズラン通り

 金井美恵子さんの「スタア誕生」には、「スズラン通り」という名の章がありです。
 書き出しは、次のようになります。
「スズラン通りなんて言ったって、そもそも、スズランという花は寒い地方や山の奥の
谷間に咲いているのだし、感じではスズのランって書くらしいけど、このあたりの土地
とは何の関係もないじゃないよ、とパチンコ屋の玉売り娘は、通りの名前が変だと言う
のだ。」
 そういえば、当方の住むまちにもスズラン通りというのがあるよなと思いながら、こ
のくだりを読みました。「パチンコ屋の玉売り娘」は、変な名前というのですが、当方
が住むのは「寒い地方」でありまして、スズランは見慣れた花でありますので、あまり
違和感はないのです。
 全国のあちこちに「スズラン通り」はあって、東京都内にもずいぶんとあるのだそう
です。
 金井さんが「スズラン通り」について書いています。
「スズラン通りのスズランは、スズランの形をしたというか金魚ばちを逆さにしたよう
な乳白色のガラスの電球用の傘が鋳物の鉄で出来たアール・デコ風の曲線で半円を描い
ている茎に大きな花と小さな花が四つずつぶらさがった街灯で、柱の部分も柱から伸び
た花のついている曲線になった茎も、深緑色の塗料が塗ってあって、電気が点くと、乳
白色ガラスが桃色に染って輝いて、通りの両側から何本も何本も大きなスズランの花が
咲いたよう」
 このあとまだまだ切れずに文章は続くのでありますが、引用はこのくらいにします。
 スズランが群生しているようなところは、ほぼ原野でありまして、そんなところに通
りがあるはずもありませんので、日本のほとんどの「スズラン通り」は、このスズラン
型の街灯が設置されていることから名付けられているのでしょう。
「女学校の音楽の先生の日当たりのよくない湿った裏庭の隣の家との境の塀際には、
北海道の知りあいから送ってもらったドイツスズランが植わっていて」

 当方の庭にあるドイツスズランであります。ここには日本のスズランもあるのですが、
ドイツもののほうが優勢で、日本ものは姿を消しそうであります。とにかくスズランは、
どんどんとはびこってしまって、他の草花に迷惑をかけるものなんですね。
 金井さんのものを読んでいて、そうだろうかなと思ったのは、次のところ。
「女学校の音楽の先生とご主人の住んでいた家は、今はどうなっているのか、・・・
戦後空き家になってから、放火だったのか、入り込んだ浮浪者の火の不始末だったの
か、火事で燃えてしまったから、庭のスズランの球根も駄目になってしまったと思う、
地面の下で焼きイモのように蒸し焼きにされなったとしても、土地を整地した時に掘り
かえされてしまっただろう」
 これを読んであれっと思うのは、「スズランの球根」というところですね。スズラン
というのは球根植物でありましょうか。当方のところのスズランは地下茎でありまして、
スズランのところを野焼きしたとしても、焼きイモならぬ焼き球根はできないはずであ
ります。
 まあ自分でスズランを育てていて、しかも金井美恵子さんのこの小説を読む人しか、
このくだりを読んで、あれっとは思わないでありましょうね。