長編小説を読む 2

 D・ロッジの「絶倫の人」を読んでいるのは、このタイトルがいかにも気をそそる
からでありました。この前にでた「ベイツ教授の受難」も「作者を出せ」もまるで読む
ことができていないのでした。

ベイツ教授の受難

ベイツ教授の受難

作者を出せ!

作者を出せ!

 今回「絶倫の人」を読んでいましたら、主人公H・G・ウェルズの友人としてヘンリー
ジェイムズが登場するのでありました。
「ジェイムズの著作、とりわけ、その頃出版した三つの主な長編小説 『鳩の翼』、
『使者たち』、『黄金の盃』 のがっかりするような売り上げは、手紙に絶えず出て
くる不満の原因であったが、二人の関係のある種のぎこちなさの原因でもあった。
彼は『使者たち』を褒めた手紙に、気の利かぬ話だが、自分の短編集の売り上げに言及
してしまった。するとジェイムズは、物悲しげに、ほとんど非難するような調子で返事
を書いた。『僕の本は出てからひと月近く経つが、君の四千部には敵わず、四部売れた
と思う』。彼は同情し、ジェイムズの作品がもっと理解されるようになるために、彼
なりに努めた。例えば、アーノルド・ベネットに『鳩の翼』を強く薦め、『ブックマン』
の『今年の推薦図書』の一冊に選んだ。しかし、ジェイムズが人気作家になる望みは
まったくなかった。」
 そういえば、「作者を出せ」という作品は、ヘンリー・ジェイムズが主人公の作品で
ありました。この「絶倫の人」を読むと、はじめて「作者を出せ」に手がのびました。
 この「作者を出せ」のまえがきを読みますと、これはほとんど「絶倫の人」とうり
二つでありまして、先にかかれたのは「作者を出せ」のほうでありますので、そちらの
ほうをすこし引用です。
「この物語と登場人物は完全に架空のものである、というような文句を小説の前置きに
するのが賢明であるように思える場合がある。今回は、著者から別な言葉が必要なよう
だ。この物語のなかで起こる、ほとんどすべての出来事は事実にもとづいている。
さして重要でない一人を除き、名付けられた登場人物はすべて実在した人物である。
登場人物の書いた本、劇、記事、手紙、日記等からの引用は原文のままである。しかし
私は登場人物が考え、感じ、互いに話したことを書く際には、小説家の特権を行使し
た。」
 「絶倫の人」の前書きもこれと同じように書かれていていました。