最近購入した本 4

 これは、最近ふとんのなかで横になって読んでいるものです。今年の一月の新刊
でありますが、著者の名前をどこかで聞いたような気がして、これは山口昌男つな
がりであろうかと思ったのです。どこかで山口昌男さんが文章を書いているはずと
は思うものの、いまだに調べはついておりません。結局のところ、著者について、
まったく知るところがなしでありました。

ある老学徒の手記 (岩波文庫 青112-1)

ある老学徒の手記 (岩波文庫 青112-1)

 まったく知ることのない「老学徒の手記」をどうして購入することになったかと
いえば、巻末に田中克彦さんによる「伝説の鳥居龍蔵」という解説があったからで
あります。この解説の冒頭のところに、次のようにあります。
「私の郷里の中学校は、山間の小さな学校だったが、教師は感動をこめて、この人は
小学校を出ただけで大学者になったんだと生徒たちに話した。しかし、それは、生徒
にむかってというよりは、自分に言い聞かせているような感じだった。つまり、鳥居
の経歴は、志を抱きながらも思うように向学の機会を得られなかった多くの人たちに
勇気を与えたのだった。」
 鳥居龍蔵さんは1870(明治3)年生まれでありますが、この時代にも大学教師に
なるためには一定の高等教育を受けなくてはいけなかったようであります。
小学校をでただけで大学教師となったことで有名な牧野富太郎さんも、結局は帝国
大学では万年講師でありました。
 当時は大学がすくないのですから、今よりもずっと選ばれた人のためのものであり
ました。そんなエリートの養成機関に、小学校しかでていない人が教える側にまわる
なんてとんでもないという感じであったでしょう。
 田中克彦さんは、続いて鹿野政直鶴見俊輔、中山茂による「民間学事典」に言及
します。「『民間学』とは、大学や学会などという組織からこぼれ落ちた領域の研究
をさすものとすれば、そのような正規の学問からはずれた、いわば規格外の学問に
従事する人の多さが、その国のほんとうの国力を示しているのだと私は思う。
それはたいせつな研究を民間にゆだねている点で国家の配慮の粗さを示していると
同時に、国家に仕える官制学問への潜在的批判勢力であるという点では、国力のそこ
ぢからになっているのである。」
 在野の研究者ということになると、考古学の分野は、他よりも多く存在するように
思います。ちょっと前に話題となった東北のゴッドハンドとかのことが頭に浮かび
ますが、鳥居龍蔵さんが活躍したのは、考古学と人類学がまだ混在していた時代で
ありました。