みみずく先生 9

 みみずく先生の著作を手にしていますが、今回の文庫本でありがたいのは巻末に主要
著作および訳書一覧が掲載されていることでしょうか。これをみますと、著作で当方が
購入しなかったのは、87年にでた沖積舎「読書狂言綺語抄」と
88年青土社「ディアゴロス演戯」の二冊であります。どうして購入しなかったのかわ
りませんが、すこし熱がさめていたのでしょうか。
 みみずく先生の魅力というのは、なんといっても学問の王道をいく学者エリートたち
に挑戦状をたたきつけて、脱領域ということを売りにしたことでしょうか。
自らの学者としての出自も、貴種流離のような趣でありまして、こういう学歴で東大に
採用されるということがあるのかと思いました。
 これは、ほぼ同世代の山口昌男さんに通じるものを感じました。山口さんは東大国史
をでたものの、北海道生まれに国史研究は無理といわれたためか、都立大学の大学院に
いって民俗学に転じ、その後は脱領域を地でいく活躍をして、世界をまたにかけてノマド
的知の実践者となるのですが、一時期はこうした知のスタイルに同志的な共感を持って
いたのでありましょう。(「みみずく偏書記」には、山口昌男さんの「本の神話学」書評
が収録されていますが、これは好意的なものです。)
 学者の王道というのがあるとすれば、それは学者エリートとして育てられることであり
ますね。当方の頭に浮かんできたのは、阿部良雄さんのような人でありましょうか。
父親は著名な作家、奥様は著名な文学者の孫で、文学と美術の関わりの研究ではフランス
でも評価される論文を発表する。
こういう主流派にも、それなりの大変さがあるのですが、これの傍系にならず、対抗軸を
示しながら道を切りひらくのは、起業するようなものでありますね。
 山口昌男さん、由良君美さんは、こうした独自路線の創出に成功したのでありましょう
か。
 当方は、このお二人のひいきでありますので、そう思いたいのですが。