ノマディズム

 昨日に入手した山口昌男さんの追悼文集を手にしています。

山口昌男 人類学的思考の沃野

山口昌男 人類学的思考の沃野

 山口ファンにはとてもうれしいものであります。山口夫人がインタビューに答えて
いるページもあって、当方のようなミーハーなファンも読みすすめることができます。
ナイジェリアの大学に赴任した時には、生後三ヶ月の長男さんを同行したという話に
は驚きました。1963年のことですから、その時代に家族をともなってのアフリカ行き
というのは、相当に思い切ったことであります。本日話題となっている言葉をかりま
したら「蛮勇」となるのでしょうか。
 そういえば、以前に話題にした「鳥居龍蔵」さんは、調査に行くとき家族を同伴し
たということを記したことがありました。鳥居夫人もモンゴルの研究者でありますし、
その時のお子さんは、同じ道に進んだと鳥居さんの著書にはありました。
 それと較べると山口昌男さんのふさこ夫人は、普通の家庭の主婦(?)であります
からして、アフリカ行きは思い切った決断であります。
「向こうにいた間に主人はあちこちの調査をしていましたが、私がついて行ったのは
三回くらいでしょうか。・・・
 最後に行った所で、主人はベンジャミンと一緒にどこか別の場所へと調査に出かけ
てしまい、半月間、私と息子だけがある村に残されたことがありました。ちょうど
雨期にあたっていてジメジメとしていた時期でした。英語を話す人もあまりいない
ような所で、五十年前までは人身御供をやっていたという村です。私たちは円い形を
した家で、そこが他所からきた人のゲストルームになっていました。
私と息子はそのなかの簡易ベッドで寝起きをしていたんですが、夜ふと気がつくと、
闇のなかにキラキラするものがたくさん見えました。何だろうと思って眼を凝らして
よく見ると、向こうの人たちでした。みんなどぶろくを飲みながら、こちらをじーっ
と見ているんです。・・調査に行ったのは私たちのはずなのに、どっちが調査の対象
なのか判りませんね。とはいえ、そのひとたちも人間だし、人対人、ここはもう
信じるしかないと思って、その人たちとおつきあいをしていました。」
 これぞふさ子夫人の面目躍如であります。これができなくては、調査についていく
なんてことにはなりません。北海道の女性の素晴らしさであります。
 この本にあるナイジェリア時代の写真に、おむつをしてよちよち歩きをしている
息子さんがどうなったかといえば、父親とは別な世界で活躍をしているのでありま
した。
http://www.maujin.com/2011/archive/yamaguchi_ruiji/