年の初めの 12

 四方田犬彦さんは、ほかにどのような本をあげているか気になることでありましょう。
これがまたまた渋いことでありまして、次の解説でありました。
  解説 尹学順   高井有一著「立原正秋」  新潮文庫
 四方田犬彦さんが「立原正秋」さんについての高井有一さんの本を手にするというの
は、高井有一さんへの興味よりも、立原さんに関する関心からであることは明白であり
ます。

立原正秋 (新潮文庫)

立原正秋 (新潮文庫)

 これの元版を、当方もブックオフで入手したことがありましたが、こちらはどちらかと
いうと、古風な文士の趣ある高井さんへの関心からでありました。
四方田さんのコメントは、次のようなものです。
「立原の出自をめぐって彼と故郷をともにする解説者が、立原の出自をめぐって立原の
自己目的化に疑義を呈しているところがスリリングである。この解説をもってようやく
この名著が完結したという印象あり。隠された出自という文学的主題をめぐる、愛情に満
ちたエッセイだと信じます。」
 元版ではなく、文庫になって解説を添えられて、これが完結というのでありますからし
て、これはどこかで手にしてみたいと思わせます。
 さて、もう一冊はです。これは、当方はまったく未知の本であります。作者はアニメ
作家として著名な方であると知ったのは、数年前のことであったように思います。
 解説 山田正紀  押井守 「獣たちの夜」角川ホラー文庫 まったく、このようなものもチェックしているのでありますか。しかもこれについた
コメントがであります。
「『獣たちの夜』は、いかに江藤淳が1970年代初頭に年少の世代を舐めていたかという
突然の批判から語り起こされ、この思弁的魅力に満ちた荒唐無稽な怪奇小説を、みごとに
時代の文脈のなかで論じている。お茶を濁して、作者との交遊録でも書いておけばいいと
ころを、文芸批評として正統的な切り口で大上段から論が展開してゆく。押井はこんな風
に論じられ、実によかったなあという気持ちがする。」
 四方田さんは、当方よりも何歳か年下で、押井さんは当方と同年生まれ、山田さんは
当方よりも一年年長であります。
 当方がものごごろついたときには、江藤淳は文壇保守の論客となっていて、進歩的文化
人への疑問を呈していたものです。あとはなんとなくエリートであることを鼻にかける
ような雰囲気を感じて、否定すべき存在の代表の一人でありました。
 なんとなく、当方が感じていたような江藤淳像につながるものを、この「獣たちの夜」
の解説はとりあげているのではないかと、期待してしまいました。