昨日に続いて蘆原英了さんの著書にあります「恋の花」の話です。
「フランスでは若者たちは、リラの森にゆくことが大好きだ。女の子を連れて、リラの
咲き乱れた森へ入ってゆけば、もうしめたものだという。リラの花のむせかえるような
匂いをかぐと、どんな不感症の女性も思わずよろめかざるを得ないという。事実、あの
素晴らしい匂いにむせたら、恋をしないでいられるほうが不思議である。
だからフランスでは、リラの花を恋の花といっている。そして恋の花はリラばかりで
なく、鈴蘭の花もそうである。そういえば花はみんな恋にむすびついているとも言え
よう。バラの花なども例外ではないが、こういう考え方はフランス的で、日本的感覚と
はちがうようだ。」
これは当方の家にあるリラの木でありますが、花がすくなくてさびしい限りでありま
して、これでは「むせかえるような匂い」などは望むべくもありません。あちこちの
お宅には見事なリラの木があるのですが、特に恋の花という意識で育てているお宅はない
のではないかな。パリとこちらではリラの木じたいが違うのかもしれません。(自宅の
リラの花は6月9日に撮影したものです。)
「5月1日は万国の労働者の日、いわゆるメーデーであるが、パリでは鈴蘭の小さな花束
が盛り場という盛り場、地下鉄の出入口、広場という広場で売られている。その日だけの
臨時の花売りが、街に一杯あふれている。・・・
その年を幸福で暮らしてほしいと思う女性に、5月1日は鈴蘭の花束をおくる日なので
ある。ふだんから好きだ、好きだといっていながら、その日に鈴蘭の花束をおくらないと、
嘘がばれてします。不誠実な男として、たちまち信用を失ってしまう。」
5月1日のことを「鈴蘭まつり」というと、この文章にはあるのですが、これは初めて
ききました。「イヴ・モンタンが主演した「5月1日」という映画が「鈴蘭まつり」とい
う邦題で封切られて以来のことであろう。」とありますが、こちらでは鈴蘭も6月の花で
ありまして、パリの歳時記は、当方の住む地方とは一月ほどずれておりまして、パリと
当方の住むところでは、こちらのほうが緯度は低いのでありますが、パリの季節感のほう
が、東京に近いようであります。
この時期の鈴蘭でありますが、このなかにはそれこそメーデー会場で購入した鉢植えの
鈴蘭を地植えとしたものもあったように思います。まさか、その年のメーデー会場で
鉢植えの鈴蘭を販売していた方が、イヴ・モンタンの映画のことをご存知であったとは
思いがたいことです。