平凡社つながり 19

 そういえば7月というと日本では「巴里祭」というイベントがあるのでした。フランス
の祝日にあわせたものですが、なんとなくシャンソン祭のような印象を持ってしまいま
す。この時期でありましたら(ちょっと遅いかもしれませんが)、「花のパリ」であり
ましょうか。
 蘆原英了さんの「シャンソン手帖」の巻頭におかれた文章は副題に「シャンソンに歌わ
れた花」とあります。
「よく『華のパリ』という私などは、嘘つきよばわりされることがあって、なかには蘆原
英了に一杯食わされたなどとおっしゃる方がある。私は何も一杯食わせる気もなあいし、
嘘をつく気もないが、よくその人たちの話を聞くと、冬のパリを訪ねたとある。・・
 やっぱり花は春で、『花のパリ』を見ようと思ったら、やはり春にパリを訪ねなければ
ならない。
 問題は春のパリである。パリの春である。
 これはパリで冬を越えしてみないとわからないかも知れないが、パリの春の素晴らしさ
は言語に絶する。」
 パリは緯度が48度(もちろん北緯)でありますので、日本でいくと稚内市よりも北に
あります。ずいぶんと北に位置しているのでありますから、冬を越すことの大変さ(雪は
多くなくとも太陽のでている時間が短くなる)は、北海道などと共通するものがありで
しょう。
 上に引用したのに続いて蘆原さんは、次のように記しています。
「冬の間は毎日毎日が雨で、暗い。朝、眼がさめて窓をあけて外を見ると、まだ暗い。
その年、その年によって狂いはあるけど、パリの冬は晴天の日はたいへん少ない。・・
それが四月になると、ある日、突如として青空が見えて、快晴になる。天がまったく
高くなって、見上げる限り、青空である。そして太陽がおだやかに照りわたっている。」
 パリにいったこともないのですが、このような文章を読むと、厚い雪雲におおわれた
北国の冬の日々のことを思いだします。雪が溶けて、日差しが強くなって、雪が消え残っ
ているうちに福寿草などが顔をだします。
 パリであれば、春の花は次のものです。
「 パリの春をたたえたシャンソンは数多いが、それらのシャンソンに出てくる花は、
リラの花が多い。リラは日本ではライラックと英語式にいわれるが、香りが高く、恋の花
としてこれほどふさわしいものはないであろう。
 リラの歌でよく知られたものでは、『白いリラの花が再び咲く頃』というのがある。・
昭和のはじめの頃、宝塚歌劇で『すみれの花咲く頃』という題で歌われた。そして大ヒッ
トし、いまでは宝塚歌劇の唄の代表的なものとなっている。」
 パリでリラは何月に咲くのでありましょう。北海道でライラックは6月の花です。
六月のはじめ札幌の街が、「よさこいそーらん」で騒々しくなるころが、リラの花の季節
です。札幌で育った作家 渡辺淳一さんは、この季節のことを「リラ冷え」とよびました
が、春になってこれから初夏にむかうというのに、季節が足踏みする感じとなるのでした。