「平凡社つながり」といいながら、どこがでありますが、蘆原英了さんの本をだして
いる新宿書房がであります。
ということを記してから昨日の続きで、「鈴蘭まつり」であります。当方の住むまち
のまわりには、鈴蘭の群生地がありまして、そこが観光地となっていたりして、鈴蘭の
花の季節には「鈴蘭まつり」が開催されます。蘆原さんがいうところの鈴蘭まつりは、
鈴蘭群生地で行われるものではありません。
「とにかく鈴蘭の花といえば恋の花で、これまた匂いが美しい。清純な感じだが、やはり
強い香りがする。この匂いをかいでも、恋をしないではいられない。
私はこの鈴蘭まつりを、たいへんいいものだと思っている。日本でもはやらせたらいい
と思うが、五月一日は日本ではすこし早いのである。五月一日は温室先のものしかない。
五月下旬になると北海道からたくさんやってくるから、六月一日あたりにしたらいいだろ
うが、やはり鈴蘭と五月一日は切っても切れないだろう。」
昨日に引用していますが、鈴蘭まつりというのは、「その年を幸福で暮らしてほしい
と思う女性に、5月1日は鈴蘭の花束をおくる日」でありまして、これが鈴蘭まつりで
あります。
蘆原さんがパリに住んでいらした時に、5月1日に鈴蘭の花束を女性にもって歩いて、
思い出して届けた少女のところには、花束が一つも届いていなくて、そのために少女は
だれも自分の幸福を祈ってくれる人がいないと思い泣きだしそうな顔をしていたそうで
す。これを見たとき、「これはひどく残酷なものだと」思ったそうです。
それからが、蘆原さんらしいことであります。
「それからは東京でも五月一日になると、できるだけ鈴蘭の花束をあちらこちらに届け
るようにしている。温室咲きのを届けるのだが、私の家は代々木上原に近くて、いつも
メーデーの行列にひっかかる。・・パリとちがって東京は広く、届け先が田園調布だっ
たり、高輪だったり、銀座だったりで、タクシー代のほうが花束代よるはるかに高く
つく。それでもタクシー代はまあいいけれど、時間のほうがたいへんで一日がつぶれて
しまう。憧れの女性の仕合わせを祈ることも容易なものでないことを知らされる。」
いまでありましたら、花やさんから直接おくるのでしょうが、これは自分で持って
まわってこそ価値のあるものです。それにしても、フェミニスト蘆原さんの面目躍如で
ありますが、残念なことにこのイベントは、日本においては根付かなかったようであり
ます。