小沢信男著作 226

 小沢信男さんの「超俗の怪物 稲垣足穂」は、単行本「悲願千人斬の女」の収録され
た時に巻末の初出一覧には、「『新潮45』1993年三月号・四月号」とありまして、当方
もそのように引用したのですが、これの掲載誌をひっぱりだしてきましたら、これは
93年三月号だけの掲載であるようです。書き出しと末尾が一緒でありますので、四月号
までは続いていないと思われます。四月号は未確認でありますが、たぶん間違いないで
しょう。(あの時代は、年に一度は「新潮45」に小沢さんが寄稿していましたので、
翌月に名前を見つけましたら、買っていたと思うのですよね。)
 ちなみに初出の時のタイトルは、「稲垣足穂伝の驚愕」とありました。
 小沢さんが「稲垣足穂」に近しいものを感じるのは、一つには小沢さんの詩の先生
丸山薫」さんの友人であったからでありますね。稲垣足穂は超俗でありますから、
世間の常識ではかってはいけないのでありますが、このような方を友人に持つという
ことは、塩一トンのつきあいであります。
 ご本人はよろしいとして、家族はたいへんでありますね。丸山薫夫人が、無職の詩人
の暮らしをマネキンガールとして支えたのですが、この方が思い出記を残していて、
そこにも足穂のエピソードがでてくるのだそうです。
 小沢信男さんが紹介しているものを引用します。
「丸山夫妻が所用で数日アパートを留守にして、もどると押入れの中の毛布、襦袢、
下着などがない。薫の父は内務省の高級官僚で島根県知事の現職中に死亡した。その
形見の品々だから並ならぬ高級品だった。それをごっそり足穂が持ち出して質屋に入れ
たことが、やがてわかった。
『タルホ』にやられてしまったなぁ』
薫は別に怒るでもなし、鷹揚なものでした。」
 詩人を亭主に持つと、ほんとうに奥様は大変であります。