小沢信男著作 189

「昨日少年録 その1」は、「EDI」というこだわりの版元のせいもあって、小沢信男
さんの著作としては珍しく限定本のような趣となっています。もともと少部数のもので
ありますし、価格もそれなりのものでした。
 亀山巌さんと、亀山さんにつながる人についての肖像集となっています。
 亀山さんにつながる人は「坂本篤」さんという方で、亀山さんがその著作の半分
ほどの版元である「有光書房」主人だそうです。
 ということで、「艶本人生 坂本篤という人がいた」という文章がはじまります。
「坂本篤という人物がいました。有光書房主人。この人のことが知りたい。 
 生前は名物男であったようで、ご存じ寄りには、なにをいまさらの感もありましょう
が、昨今の人物事典や紳士録の類には『坂本篤』の記載はなく、たまたまあれば同姓
同名の異人です。名物男と有名人とは、イコールではないのだね。・・・・
 親しいお知り合いたちも年々に減って、いずれは絶滅する道理だ。と思うと、あわて
たい気持ちにもなるのです。」
 この方は、出版社主ですが「南方熊楠の『南方閑話』など民俗学的な本を手がける
かたわら、かねて愛読の『誹風末摘花』を出版して発禁となる。つづく『性の表徴叢書』
は内容見本の段階ではやくも発禁、罰金50円をとられ」たのだそうです。
 ということはどちらかというと発禁分野で活躍した版元の主人ではないですか。
「そのことろ梅原北明の主宰誌『文芸市場』が左翼雑誌からピンクの風俗雑誌へ転向する
について、その発行元をひきうけ、これまた再三、発売禁止勲章を拝受。
おかげで坂本篤は元来ピンク一筋の男なのに、アカとも睨まれ、そのぶん罰金が高くつい
た。」
 梅原北明こそは、歴史上の人物ではないですか。いまから40数年前の高校生のころ、
親元が引っ越して、下宿することを余儀なくされたのですが、その同じ下宿に単身赴任
中のおじさんがいまして、その人がとっていた「小説新潮」が月遅れになるとごみと
してだされました。当方は、その雑誌をせっせと回収してきては、「百鬼園随筆」とか
を読むのを楽しみにしていましたが、その雑誌に野坂昭如の「好色の魂」が連載されて
いて、これを読んで梅原北明という人のことを知りました。
 梅原北明さんは、当方でも名前を知っていて有名ですが、たしかに小沢さんが懸念す
るように坂本篤さんは、これではじめて名前を聞きました。