小沢信男著作 136

「東京の池」の小沢さんによるあとがきの続きです。
「本書は、東京散策のための実用書です。自前の脚と、電車・バスの公共の乗物の組み
合わせで、ご案内しております。参考資料は各区市、東京公園文庫、郷土史、地名考、
等々枚挙にいとまがなければ、まとめて感謝しておきます。こうして二十三区内の主なる
池は回ったつもりです。
 さりとて悉く網羅したわけではなし、長短でこぼこだし、個人的な所感や回想が
どばっと展開したりもいたします。案内書としては偏頗で、随筆か小説みたいという
ご感想もおありでしょうが、そうなのです。そういうものとしてお役に立ちたい。
こっそり告白すれば著者どもは、なにをかくそう実用の文学をめざしておるのでした。」
 二十三区内の主な池はまわったとありますが、当方が知っている池はいくつありますで
しょうか。
 この本のまえがきで、冨田さんは「いまほど廃頽の憂き目をみている時代はないだろ
う。埋立てられ、暗渠化され、削られ、曲げられ、堰止められ、そこかしこで瀕死の
重症にあえいでいる。」と書いています。
 大きな公園にある池ならともかくですが、まちなかにある池は、迷惑施設の一番で
あったかもしれません。これを埋め立てれば宅地が生まれるとなると、だれも反対する
人はいなかったでしょう。そうしたわけで、あちこちで小さな池は姿を消していきまし
た。当方の住む街にあった池も、埋立てられて住宅地に生まれ変わり、今では池の面影も
残っていません。
 「東京の池」は、これ以上「東京の池」を埋めてくれるなという願いがこめられている
ようです。