河出版「東京百景」についで、刊行された小沢さんの著作は、「東京の池」となり
ます。これは小沢信男さんと冨田均さんの共著、作品社 1989年12月刊行 です。
表紙カバーがやけてしまって変色しています。どこかにもう一冊、もうすこしきれ
いなものがあるはずですが、本日はこちらのものをかかげておきます。
この本の帯には、次のようにあります。
「江戸・東京四百年の盛衰を黙って見守り続けた池。
水底に沈む歴史を掘り起こし死に瀕している東京の水景をふたたび甦らせる散歩魔
たちの夢のあと。
水脈都市・東京の原像!」
次にあとがきで、この本の成り立ちを、小沢信男さん自ら説明しています。
「『地球の歩き方』という海外旅行案内シリーズのひそみにならえば、本書は『東京の
歩き方』水景の巻であります。
東京の池をめぐって全五章。その第一章は都心から。上野不忍池をスタートして旧下町
と旧山の手を、つまり浅草から新宿まで、山の手線の北半分をぐるり一周します。
以下は東より西漸の方針で、第二章は東京の東端へ。江戸川と荒川の間を北から南下し
ます。足立・葛飾など元来野趣ゆたかなここらも、このごろは下町と呼ばれます。
渥美清こと車寅次郎氏の活躍に負うところが大きいかもしれません。
第三章は隅田川上流の浮間から河口の埋立て地まで、左右の両岸を点々とくだります。
このごろここらは川の手とも呼ばれるが、元来イナセのはずの土地柄がノテと呼ばれて
苦笑い、といったものでもありましょう。
第四章は山手線の南半分、つまり山の手の本家の麻布や白金の台地から南下して、新
山の手、いや当節はここらも本家のような太田・目黒・世田谷を西へ西へ。
第五章は中央線沿線の各区を往きつ戻りつ、神田川の源の井の頭池で打ち止めます。
以上の地理を、池から池へ歩いてゆく。するとしばしば歴史が沈んでいて、そこで
それを釣りあげると、ついでに現在から未来までつながって釣れたり。多年住み慣れた
つもりの東京を改めて見直す案配でした。そのレポートを綴り合わせたのが本書です。」