小沢信男著作 120

 小沢信男さんの作品「抜けて涼しき」を読んでいますと、これが「新日本文学会
への挽歌のようにも思えてきます。「歯」というのは、自分の肉体の一部になった
ような「文学会」のことで、Q友というのは、文学会でであった人で、そのなかでも
とりわけインテリ階級に属する人。
 この作品は84年までに書かれているのですから、「新日本文学」は、まだ続いて
いたのですが、会の運営は相当にたいへんになっていたはずで、いつかはこの会を
終わらせなくてはという思いが、小沢さんのなかに芽生えていたと思われます。
 まあ、深読みというが、うがった見方ではありますが、この「抜けて涼しき」を
手にして、「歯」を新日本文学会と読み替え、Q友は、文字通り文学会友として
読んでみると、なんともわかったような気になるのです。
「 またひとつ 抜けて涼しき 歯茎かな 」

 ずっといずくて、このような歯ならなくなったほうが、なんぼすっきりするかと
思いながら、日々くらしていたのだが、それが抜けてみると、いずさからは解放
されるのですが、頼りにするのは歯茎のみということで、失ってしまったものの
存在の大きさであります。
 新日本文学会が解散となった今読みますと、こんな読み方もできるのではと
思うのですが、これの初出が「文藝」のいつの号であったのか、いまはわかって
おりませんです。