小沢信男著作 237

新日本文学会」をつわものどもの夢のあとにしないための、小沢さんによる試みが、
「通り過ぎた人々」であり、「田所泉作品集 楠ノ木考」編纂作業でありました。
新日本文学会の解散を提起した「新日本文学会の半世紀」という個人報告も、もちろん
そうであります。この報告などは、小沢さんの本には是非とも収録していただきたい
ものですが、なかなかそうはならないでしょう。
 この解散提起の出だしは、次のようなものです。
「 私が新日本文学会に入会したのは1953年(昭和28)で、まるまる五十年経っていま
す。その解散を、私が訴えなければならない。この半世紀の総括を、縷々語ったら何日
かかるかわからない。これはもう我々が、どんな失敗をしてきたら、ということにし
ぼって考えたい。
 芸術運動は、何が失敗で、何が成功かなんてことはすぐにはわからない。成功したと
思っていると、失敗だった。またはその逆。そういうものでしょう。あげくに取りかえ
しのつかない失敗ということにもなる。」
 小沢さんの解散提起は、「五十年の失敗を伝えること」になります。とはいうものの、
そのまえには、新日本文学会の基本的なスタンスや輝かしい成果について語られていま
す。
 ・ いろんなところの若い才能をみつけて、よびかけて拡げてゆく。
    文学会の外にいる人に声をかけて、作品を書かせる。
 ・ 眼を外へ、外へ拡げていこう。
    個々のジャンルにたてこもらない、ジャンルを越えて、芸術総合化。
 ・ 国際交流
    欧米以外の文学の書き手との交流
 これが「新日本文学会」の基本的なスタンスであるとしたら、このスタンスでの活動
は、現代においても、なお求められているといえます。