名古屋豆本「東京百景」は、俳句としりとり唄と「いまむかし東京逍遥」に収録された
散文からなります。
小沢さんがおまけといっている「しりとり唄四篇」は、その後も日の目をみることがなし
ではないでしょうか。
となると、この「名古屋豆本」では、この「しりとり唄」が一番の珍品であるかもしれ
ません。(一晩たってから、これの一部は「あほうどりの唄」の冒頭に収録されたもので
あると気がつきました。その時は、1、2と表示されて、夏と秋のみが掲載さていま
した。「詩学」が初出です。)
「しりとり唄」というのですから、しかけがあるのですね。四篇となっていますが、
これは「夏、秋、冬、春」にちなんだ四篇です。
1 夏
かなかな蝉は天の鈴
すずしき瞳は矢のごとく
疾く射られたる恋やつれ
つれなき君とおもいきや
着痩せたまえる柔肌は
たわわにまろき乳房熟れ
愁いなきにも似たるかな
2 秋
灯ともしごろのせつなさは
爽やかに鳴る秋の笛
ふえる白髪の鬢の霜
詩も書かざりし幾年の
渡世の小路裏通り
折ふし雁のわたりつつ
恙ないかや遠いかのひと
3 冬
雪ぞふるこのステイション
小便のはずむ寒さよ
小夜ふけて叫ぶ汽笛よ
今日すぎて明日はまだこぬ
今生の闇にわが居て
凍てつけるホール彷徨う
酔うが如と行きこう行き
4 春
うつせみの世に棲み飽かず
かずかずの恋もせしかな
愛しやなおみなごのほと
ほとばしる春の泉や
身やすでに五十路と老ゆれ
揺れやまぬ夜半の迷いの
命の緒ひたと脈うつ
夏ではじまり春で終わるのですが、この春というのが、けっこうエロチックでは
ありませんか。