小沢信男著作 195 足の裏

 小沢信男さんが、次に発表されたのは、句集「足の裏」であります。
これもまた一般にはあまり流通しなかったもののようです。

 句集「足の裏」 1998年8月8日刊行 発行所 夢人館 発行者 大西和男 
         装丁 直井和夫   定価1200円(税別)
 この句集の「あとがき」を引用します。
「一九八五年夏に『句集・東京百景』を、名古屋豆本第九四冊として、板元の亀山巌
が作ってくださった。百景とはいえ中身は六十句。その二年ほどまえに庄司肇氏の個人
誌『きゃらばん』に、十余句をのせたところ未知の亀山氏からお声がかかり、それから
六十句にこぎつけたのだった。1989年に作品集『東京百景』を河出書房新社より刊行の
さいに、五割増の九十句にして一章とした。」
  亀山巌さんは、前回に言及していた方でありますし、名古屋豆本と河出書房からでた
「東京百景」についても、これまで話題としておりました。
「一九九六年春に『小句集・昨日少年』を、無人館通信の別冊1として、これは大西和男
氏が作ってくださった。六十二句を収めた。一枚の紙のうらおもてに刷って折りたたんだ
ものだが、一個の句集にはちがいない。
 そして一九九八年夏の今回、これも大西和男氏が作ってくださる。『昨日少年』の拾遺
と、その後の新作をあわせて百五十句。私としては空前の大句集だ。」
 この句集に続いて2000年には「んの字」がでるのですから、90年代後半は、ずいぶん
と句作に励んでいたことがわかります。その頃は、並行して「裸の大将一代記」を書き
下ろしていたのは、後になってわかったことであります。
「夏の部の冒頭七句は、筑摩書房発行の『頓智』一九九六年七月号に『東京新景』と題し
て発表した。記念にそのまま収める。『鳥渡る』は、文芸誌『ユリイカ』一九九六年
一月号に発表した。十句で一つの作品のつもりだが、おかげでかろうじて妹が弔えて、
俳句がありがたいとしみじみ思った次第です。」
 小沢さんの一代記をみますと、小沢さんは男三人、女二人の五人兄弟となります。
女性二人は、ともに妹さんだそうです。
 小沢さんは、追悼の句を多く発表されていますが、実の妹さんを送るという連作は、
読む人をつらくするような内容となります。
 この連作に関しては「んの字」の解説で、多田道太郎さんが、次のように評していま
す。
「俳句に悲傷は似あわない、とはどなたの説でしたか。たしかに連句の会がお通夜に
なっては型なしかもしれません。だけど、現代俳句では、小沢信男の追悼句がみごとな
美しいとさえいえる墓標みたいに佇っている。みんなひとりひとり佇っているんだなあ。
なかでも『鳥渡る十句』<実妹伊藤栄子を送る>と前書きのある十句は、葬の前後、
何十時間かの物語俳句になっていて、読む人の悲傷の共感に誘わずにいられません。
大げさにいえば(俳句は大げさを嫌うようですが)空前にして絶後の文芸じゃないで
しょうか。」 
 短詩形になじみのない小生にも伝わるものがあるというのは、この連作が「物語」と
なっているからということですね。小沢さんの俳句作品が「悲傷」で代表されるという
のは、いかがなものかとも思いながら、この作品のもつ訴えに感動です。