小沢信男著作 95

 小沢信男さんの文章に引用されている永井龍男さんの「石版東京図絵」は、どこかに
あるように思うのですが、どちらにしてもすぐにでてくるところにはありません。
小沢さんは永井さんの作品から火災にあったくだりを引用して、かっての火災にあった
ときの対処法に関して、次のように記しています。
「われわれは災難に出会っても、身に別状さえなければ、不幸とばかりは限らないのだ。
助け合う人々がいて、立ち直る活力があるかぎりは。そしてこの街の住人たちは、代々
そのように生きてきた。その意気と活力が、彼らの五体にみなぎるとき、燃える火さえも
が美しかった。
 抜け裏のある町に住み、ふだんは互いに干渉せず迷惑をかけず、これを律儀といった。
多からぬ家財道具を長持ちさせるのは、まずしいのではなく小綺麗なのだった。いや裏店
の借家住まいは、もちろん貧しくはあるだろう。だが、それはその分だけ、ユートピア
近いのかもしれなかった。
 今日、ローンが息子の代まで続く兎小屋に、ろくでもない私有財産を山ほど詰めこみ、
その隙き間でかつかつ暮らして、それがどれほどシアワセなのか。」
 3月以降、未曾有の事態となっています。今回、被災した地域は、先の戦争では大きな
被害は受けていないように思いますので、まさに有史以来でありましょう。
「身に別状さえなければ」と小沢さんは書いていますが、別状のあったかたも多くいるの
でありますが、それでも「助け合う人々がいて、立ち直る活力があるかぎり」は未来が
開けると思いたいことです。