小沢信男著作 43

 小沢信男さんが70年10月からのほぼ1年にかけてルポを連載した「流通設計」と
いう誌名で検索をかけてみましたら、いまもこの業界雑誌とその版元は健在である
ことがわかりました。小沢さんが連載でもしなければ、まったく知ることもない雑誌
でありました。(業界雑誌の編集長といえば、椎名誠さんはそうでありました。
本の雑誌」が有名になりつつあったときは、まだ二足のわらじであったのですが、
本業の「ストアーズレポート」というのは、どんな雑誌かと興味をもったものです。)
 「流通設計」とその版元について、小沢さんは次のように書いています。
(「大東京散歩案内」に収録の「高度成長時代の人間ドラマ」の冒頭部分)
「月刊誌『流通設計』の創刊号から、つまり1970年十月号から翌年九月号に
かけて<人間ドラマ>と題する連載ルポルタージュがあった。物資流通の労働現場
で働く人々のありようを、写真と文章で探訪してまわったのである。この文章のほう
を受け持ったのが、かくいう私だ。 
 連載開始は創刊号からだが、私がはじめて編集室によばれて行ったのは、七十
年夏の某日で、テアトル東京うらの通りが午後の日ざかりに白く照り返していた。
いたって飾らないビルの、きわめて小さなエレベーターでごとごと引っぱりあげ
られ、輸送経済新聞社の一隅の応接ソファに通された。たしかそこで白紙に罫線
だけ引いた創刊準備号を見せられた記憶がある。プランを承り、さてそんなことが
私にできるかどうか、これまたまったく白紙状態だった。
 にも拘らず、たぶん二つ返事で引き受けたのは、万年文筆業者の生活の必要も
さりながら、このプランに魅力をおぼえたからである。好奇心が頭をもたげた。」
 この連作が収録されていることにより、この本は小沢さんのなかでも珍しいもの
となっています。