今年 消えたもの 4

 昨日に引き続きで「理論社」を話題にするのですが、消えたのは理論社の創業者、
小宮山量平さん以来のバックボーン(理念)ではないかと思われます。
 今江祥智さんは、理論社とのおつきあいが深い作家ですが、児童文学の出版に
こだわるとこだわるほど大変になるというのが、最近の出版業界であるようです。
ポプラ社が、最近文学作品でベストセラーも狙うの出版社にかわってしまったのは、
理論社の二の舞にならないための戦略であるのかもしれません。
 今江さんの大長編シリーズというのは、「ぼんぼん」「兄貴」などがものすごく
分厚いものですが、そのようなものを刊行したのは、すべて理論社でありました。
あげくの果てには、この「ぼんぼん」四部作を、全一冊の本にしてしまいます。
「 一冊の中長編四部作がすっかり収まっている。原稿枚数で二千四百枚、九十万字と
いう”大作”であった。私が二十年ばかりかけて書きつぎ書きおろしてきた四冊の
長編を一冊にまとめた本なのである。
 分厚くて、重い。二段詰である。一頁に三枚入って八百七十頁もある。・・・
いったい読書離れしている今の子どもの誰が、こんなどでかい本を読むのだろうか?
という疑問を呈してくださる人は多い。というよりまずたいていがそうおっしゃる
のである。」
 この「ぼんぼん」全一冊を実現したのは、理論社の編集部長であった山村光司さん
というかたであります。
 今江さんの、この文章(「分厚い本の愉しみ」)の書き出しは、この全一冊について
のものです。
「こんな本を出してもらえたらなあ、という夢は、書き手なら誰でも一冊も二冊も
もっているものだろう。私にも、そうした夢があった。当然、贅沢な本なので、当節
の冷え込んでいる子どもの本の出版の世界では、どんどん遠くなっていく夢であった。
それだけに余計に、その夢の本についての夢をおっていた。十年にもなるだろうか。
 それがいきなり実現した。
 三十五年来の友人であり、ねばり強い出版人でもある山村光司さんの決断のお陰で
あった。こどもの本の売場どんどんひどく、ますます貧相になっていくのに耐えかね
て、・・私の夢が叶えられることになったのである。」
 この文章が書かれてから十五年ですが、「理論社」はほんとうによくぞ持ちこたえた
ものです。