今年 消えたもの 3

 今年 消えたものとして理論社をあげるのは、ちょっと違うといわれそうです。
いまほど検索をかけてみましたら、理論社のホームページは健在でありますし、
会社としては存続することが決まったようですが、彼はむかしの彼ならずであります。
 もちろん昔の彼というのは、戦後に起こった出版社として小宮山量平さんが代表を
つとめていた時代のことであります。
 理論社というと思い出すのはなんといっても大長編シリーズでありますね。人に
よっては灰谷健次郎の作品を出していた会社ということで認識しているかたもいるで
しょうが、当方にとっては今江祥智の作品群であります。
 その今江さんが「幸福の擁護」(みすず書房 96年刊 )のなかで、理論社とその
編集者について記しています。

幸福の擁護

幸福の擁護

「 私は小宮山氏の理論社の社屋の前を通ったことがある。更に、小売店の者らしい
顔で玄関を入り、一階の営業部の生業ぶりを一瞥したことがあった。ごくありきたりの
仕舞屋風な建物で、営業部の仕事も手仕事で、その日その日の注文を出荷するだけの
倹しいもののように窺えたが、それは僻目であったろうか。
 それにしても、小宮山氏の表現によれば『ハングリーな』時期であった。そして
それにしても現在の社屋を見れば(別に社屋の立派さだけで云々する気持ちはさら
さらないが)よくぞ耐え、よくぞ持ちこたえ、よくぞ今日の隆盛にもっていかれた
ものだと感嘆する。そこのところの正直な報告をいただければ、現在も、良き意志を
もちながら経営的というよりももう少しささやかに言って、『経済的』に窮状にある
小出版社の編集者たちには何よりもの激励になるのではあるまいか。」
 この文章は、「プー横丁の三十年」(初出は「飛ぶ教室」に連載86年〜87年)という
ものですが、匿名で記されたものとのことです。
 そういえば、倉本聰さんの「北の国から」も理論社からでたのでありました。