杉浦康平のデザイン2

 杉浦康平さんは、20代のうちにスターとなって、それから50年間最前線で活躍を
しています。平凡社新書杉浦康平のデザイン」によると、61年8月2日の読売新聞
では、当時の若手デザイナーである粟津潔と比較して、次のように記しているとの
ことです。
「『粟津の土俗的、生物的』に対して、『杉浦は近代的、宇宙的なビジョン』だと
評され、新世代の鮮やかな台頭を、対照的な資質をそなえるふたりが象徴さるかたちと
なった。」
 61年に「杉浦は近代的、宇宙的なビジョン」と評した読売の記者は、たいしたもの
でありますね。近代的というのは、すでにその頃の作品に見ることができますが、
宇宙的なビジョンなどは、それからずいぶんたってから一般的になったように思い
ます。
 当方が最初に出会った杉浦装幀本は、なんでありましょうかと思いますが、とりあ
えず手元にあるもので初期の装幀本といえば、この平凡社新書でも大きく書影が掲載
されている「中井正一全集」であります。最初の一冊は64年8月で、完結は81年5月
からですので、なんと16年もかかりました。(遅延の原因は、久野収さんの解題が
出来なかったせいと聞いたことがありますが、実際はわかっておりません。)

 中井正一全集のデザインについて、著者 臼田さんは、次のように書いています。
「1964年に刊行の始まった『中井正一全集』全四巻(美術出版社)は、外函を飾る
精妙なリズムを刻む抽象的な幾何学なパターンが深い印象を刻む、美学者中井の、
古代から現代まで、驚くべきまなざしの広がりの中で、鋭く、豊かな振幅と緩急を
ともなって繰り広げられる『思考の幾何学』とみごとに符合してると思う。・・
 くわえて、全集でいえば月報にあたる小冊子が各巻に挟まれており、縦が横の
二倍比ある超長方形のその表紙にも、幾何学パターンが外箱とは逆の白抜きであしら
われている。総体として、輪郭と陰影も豊かに中井美学の魅力をかたちにしている。」