季刊「湯川」No.6

vzf125762008-10-17

 季刊「湯川」No.6は、79年8月刊行となっています。

 前号から1年が経過しています。
湯川書房は、一般紙に出版案内をするようなところではありません
でしたから、出版物が書評にでも取り上げられることがなければ、
会社が活動しているのかどうかも見えてきません。この6号の
巻末の一般書刊行目録を見ましたなら、この一年で新刊が何冊か
加わっていますので、まずはなんとかやっていたのかと思います。

 表紙画 藤田慶次    
 
 永田 耕衣    面を横に 
 多田 智満子訳  ミーノータウロス (シュペルヴィエル )
 岩崎 力訳    女名前について  (ヴァレリーラルボー
 有田 佐市    ムッシュ・Tについて

 俳人永田耕衣さんは、後年、こりにこった限定本を湯川書房から5冊刊行する
ことになるのですが、それは86年のことになりますから、この時点ではまだ
限定本は打ち合わせが始まったくらいで、かたちにはなっておりません。
 この永田さんについては、阪神大震災で被災してから老人ホームに生活の本拠を
移したというような話を聞いたことがあるくらいで、作品と人となりについては
知るところが、まったくなかったのですが、この文章は、若い時に関わった文化
団体の会報をだすのに、印刷を依頼した印刷所主人の人柄をほめるところから
書き起こして、そのあと自らの処女句集の企画して、それの用紙探しのために
和紙の見本を取り寄せ、俳句の師匠に序文を依頼する話へと展開します。
( もともと永田さんは、三菱製紙高砂工場製造部に勤務していたので、用紙を
 洋紙に求めるなら便宜都合がつくとかかれています。紙のことに関しては、
 知識もありますし、こだわりもある方です。)


「 処女句集『加古』は人間としても俳人としても未熟な私ながらに、幾分趣味的
 風貌を呈しはしたが、活字の誠実古拙な田舎ぶりのおかげも大いにあって、先ずは
 素朴に、一ローカル著書として中央の先輩友人たちの間にも出廻ることになり、
 それなりに好評であった。・・・
  アオイ書房刊行の土岐善麿歌集『近詠』の風姿にゾッコン惚れこんで、全く同じ
 大きさと体裁のものを、既述出口一男君の印刷で、製本は家族に手伝わせながら
 自分がやってのけ、限定百八十部が現成したのであった。私は、このあたりから、
 田舎者のくせに『本を作る』ということに異常な情熱を覚えはじめていたのである。
 ・・寿岳文章先生の著書を愛読したり、近来、湯川書房の仕事、身辺ではコーベ
 ブックスにおける渡辺一考君の仕事を、本最高の醍醐味として求心的に眺め且つ
 垂涎尊敬してきたということが、今日我が悟達の地盤であることは申すまでもない。
 ・・ 本を作ろうと志す者は、まず、既製最高の善本を永遠に見据えるべし。
 そして制作者自身、独自未完の願望的イメージを、この鹿の如く(自作の句
 『 夏鹿の面を横に歩きけり』 )『面を横に』凄絶に、怨み、憎しみ、眺め
 刺し尽くす要があるかと思われる。
  簡素であれ、豪華であれ、本物の本というものは、著者、印刷者、製本者8
 出版者)の三者が、あらゆる諸条件を最善の友として、『出会の絶景』的な一如ぶりを
 証そうとする世界からのみ現成する。」

 このような方と限定本を制作しようとすると、相当にたいへんなことのように
思います。
 この文章に登場する「コーベブックス」渡辺一考さんは、関西を拠点に出版を
続けていたかたですが、永田耕衣さんとか多田智満子さんなどは、いろいろな人的な
関わりのなかで、湯川書房の刊行物に登場することになったものでしょう。 

 この号の刊行案内には、以下のものが新規で掲載されています。

 伊藤海彦    きれぎれの空      1500円
 宇佐見英治   辻まことの思い出    1200円
 今井田勲    鶏留啼記        2000円
 鶴岡善久    シュルレアリスムの発見 2500円 
 三浦淳史    レコードのある部屋   2000円
 佐々木国弘   乳母車の記憶      1200円
 壺内弘吉    キリスト論       5000円
 中田昌秀    現代楽屋ことば     1600円
 中田昌秀    水商売うらことば     980円