季刊「湯川」No.5

vzf125762008-10-16

 季刊「湯川」No.5は、78年8月刊行となっています。
 前号から4ヶ月ででたのでありますから、たいへん立派です。
年二回なのに季刊とはという声が聞こえたような刊行ペースになり、
この号は執筆者の顔ぶれも素晴らしい。

 表紙画 藤田慶次    
 
 宇佐見英治 翰林の印影 
 池内 紀  レッシング事件 
 有田佐市  ムッシュ・Tについて
 小高根二郎 足穂入道と女色 
 中井英夫  山住みの記

 宇佐見英治のものは、「泉窗書屋閑話」というタイトルでの連作の最終回と
なっています。このエッセイは、その後湯川書房からの「夢の口」に収録されて
いますが、その時の、タイトルは「印影」となっています。ちなみに「夢の口」
では、一回目が「書物の整理」、二回目は「赤鉛筆」、三回目は「フランスの紙箋」と
なっています。このような渋いエッセイが連載されるのも「湯川」ならではです。
 池内紀さんは、いまでこそ押しも押されもしない存在でありますが、この時代には
ちょっとかわった作家の翻訳をしている人という感じでありました。カネッティの
「眩暈」とか、クラウスという人の名前が思い浮かびますが、マイナーな文学の
紹介者という役割で、後年に「カフカ」の翻訳者となるとは思ってもいませんでした。
(30年も前のことですから。)
 小高根二郎さんは、日本浪漫派に近い人でしょうか。当時は「蓮田善明とその死」
なんて著作を発表して、これが三島由紀夫の死とのかねあいで話題となって、この
小高根さんという人は、どのような人であるのかと思ったものです。
この「足穂入道と女色」には、1とありますので、連載する予定であったのでしょう。
あえなく、この一回で掲載はストップしたのですが、このタイトルで一冊にまとめ
られ、雪華社から単行本となっています。
 中井英夫さんは、湯川書房から本をだすことなく、終わったのではないでしょうか。
 季刊湯川が続いていたら、中井英夫さんの本が、湯川からでるなんてことも
あったのでしょうか。