蓬莱屋印刷所

 「サンパン」はリトルマガジンでありますが、普段みかけない文字を雑誌名に
つかっているのせいもあって、この本のことを話題にしようとすると、どう表記
しようかと迷ってしまいます。内田ひゃっけんさんと同じでありまして、ひゃっけん
先生については、小生は百鬼園先生と呼ぶことにしていますが、森鴎外については、
このように表記しても痛痒を感じませんが、内田百間と表記するのは居心地が
よろしくなくて、なによりも先生に許してもらえない気分となります。
 すでにリトルマガジンの老舗のようになっている「サンパン」が、本に関する
ブログ等で話題になることがすくないのは、この雑誌名も影響しているでしょうか。
 垂水書房を目当てにして購入した「サンパン」の巻頭の特集は、「蓬莱屋と帖面舎」
というものでありました。帖面舎という版元があったということですが、これは
「蓬莱屋印刷所」の出版部門でありまして、ここから私家版と限定本がでていた
のだそうです。
 蓬莱屋印刷所といわれても思い当たることはなかったのでありますが、「書肆
山田」の出版物は、ほとんどがこの印刷所によるものというのを見て、そういえば、
小生がもっている書肆山田版 草子4「ゴヤをみるまで」飯島耕一には、蓬莱屋
が印刷したとあったのを思いだすのでした。
 書肆山田の創立者 山田耕一さんは、「詩集『海の瞳』刊行によせてという紙片に、
書肆山田1970年7月発足第一回出版、明治以降刊行されたさまざまな姿体の
詩集群の魅力にとりつかれ、純粋造本の夢を追って書肆山田は発足した。」と誌して
います。
「 蓬莱屋印刷所と岸田製本所で製作された詩集の活字やインクの色艶、ノドアキが
よくて、とても読みやすい本の造りに惚れ込んだ人たちは少なくない。・・大岡信
飯島耕一吉岡実・・といった詩人たちの限定・特装本の詩集を造っていく。
瀧口修造『地球創造記』は黒い紙に黒インキで印刷した詩集だった。」
 黒い紙に黒いインキで印刷された詩集の普及版は、小生が学生のころに詩集を多く
扱っていた書店ではよくみかけたものです。このような本をよく出版したものだと
思いました。瀧口修造に関心があって、相当に物好きを自認していた小生ですが、
それでも購入するにはいたらずでありまして、この特集を見ますと、購入しておく
べきであったかと思うのでした。