小さなメディアの必要

 謄写版印刷のことが頭に浮かんできますと、これとの連想で「小さなメディア
必要」という津野海太郎さんの著作を手に取りたくなります。ちょうど小生が
この本について思い浮かべていたとき、津野海太郎さんと南陀楼綾繁さんの対談を
聞きにいく予習として「空想書店 書肆紅谷」さんが、この本について言及して
いました。81年3月に晶文社刊行された「小さなメディアの必要」は、それまで
黒テントのメンバーとして演劇関係の著作を発表していた津野さんが、本と編集などに
ついての文章をはじめてまとめたものです。
 この時代には、晶文社で編集者としてもばりばりとやっていましたが、今につながる
津野海太郎さんの記念すべき一冊であると思います。( 古本屋のネット検索では
ヒットしなかったので、これは簡単に入手できるものではないのかもしれません。)

 この本の表紙は、「タイ全国学生センターの機関紙『ARIRAT』78年1月号の表紙
からとられていた『森の印刷所』のイラストでありまして、その絵のなかでは、謄写版
印刷域が2台印刷作業中の様子がえがかれています。小さなメディアときくと、森の印刷
所での謄写版作業が思い浮かびます。
「 宮沢賢治は1921年1月に上京して、本郷赤門前のガリ版屋で筆耕していた。
しかしのちに『銀河鉄道の夜』のなかで、主人公のジョバンニがはたらきにいくのは
ガリ版屋ではなく、町の活版印刷所だった。
 町の活版印刷所におけるジョバンニの労働に、賢治自身のガリ版屋における労働
経験が反映されている。」( 津野海太郎 「ガリ版の話」から)

 日本の近代史におけるガリ版印刷の歴史は、宮沢賢治も登場するという豪華なもの
ですが、この先にスーパースターが登場する可能性がないのが寂しいことです。