「回想のイタリア旅行」

 山田稔さんの「富士さんとわたし」編集工房ノアと同日に届いた「回想の
イタリア旅行」でありますが、こちらのほうは、こうした本がでるとのことを
聞いたときに、小生のブログで話題にしたせいもあって、すっかり手にするのが
後回しになってしまいました。「富士さんとわたし」を読むのにすっかり道草を
くったせいです。
 林達夫さんが、晩年近くになってからはじめてヨーロッパ旅行にでたと
いうのは承知しておりましたが、このようにたくさんの写真とともに、旅行記
でるとは思ってもいませんでした。この本には、奥様の写真も登場するので
ありますが、この人が、後年に岩浪書店の社長となる「大塚信一」さんのことを
「岩波の小僧さんがきましたよ」と、林達夫さんに取り次いだのでありますか。
 林達夫さんは、パリのルーブルでダ・ビンチの「聖アンナ母子像」をみることを
一番の楽しみにしていられたようですが、このところの報告が、この本の冒頭の
部分におかれています。
 
「 『聖アンナ母子像』に関する林さんのおしゃべるを聞いたものだから。
 わらわれはひとだかりのしている『モナ・リザ」にあえて近づこうとせず、
 まずこちらのタブローのまえにたった。見物はわずかしかいない。まるで
 われわれのためにタブローは掲げれているようだった。・・・
  夢心地をあじわっているかのような林さんを、ところが、夫人はゆすぶって、
 眼をさまさせたのである。
 『これがもつ、『胎盤』なんですか。ちっともそう見えないわ。普通の石ころと 
 同じじゃない。学者て考えすぎだから、あまりあてにしないほうがいいわよ。
 みなさん。』とかなり辛辣な言葉を口にだした。一瞬潮がひいてゆくような
 思いにとらわれた。」( 同書 「観光旅行の一日)

 林達夫さんにまけずに「再反論」を行うとのことですが、ほんとに立派な学者の
妻であるようです。