「わが忘れなば」小沢信男

 小沢信男さんの著作で入手が容易なのは犯罪者とルポルタージュで、小説集は、
けっこう珍しいものとなっているようです。なかでも一番難しくなっているのは、
第一創作集である「わが忘れなば」晶文社65年刊でしょう。
 昨日にあとがきを引用した「東京の人に送る恋文」が75年にでて、「わが忘れ
なば」に収録された作品の半分を読むことができるようになったのですが、それ
でも「日本中に暗夜の星くらいいる」小沢さんのファンは、この第一創作集を
さがしていたのでありました。小生も古本のカタログなどで、この作品集をさがして
いましたが、これはなかなかみつかりませんでしたね。なんといってもネット古書店
なんてものがありませんでしたから。この本を入手することができたのは、この本の
存在を知ってから、20年もたっていたように思います。
 インターネットで「日本の古本屋」が展開するようになって、定期的に小沢さんの
「わが忘れなば」を検索するのですが、これがほとんどひっかかったことがありま
せんでした。これまでに小生が見いだしたのは、一度きりですが、それは花田清輝さん
の旧蔵書でありまして、傍線ありとかいうなかなか興味をひかれるものでした。
当然、価格は小生が購入したものよりも3倍以上もしていて、一冊もっている身として
は、これに注文をだす決心はつかずでありました。
 この商品がでているのことは、小沢さんにもご連絡をしたのですが、どのような
ところに花田さんが線をひいているのか興味有りとご連絡をいただいたものの、購入
するにはいたらなかったようです。
 昨年のある日、ブログ散歩をしておりましたら、花田清輝さんと関わりのあった
編集者が書いているページに、この花田旧架蔵本「わが忘れなば」を入手したとの
記載があって驚きました。さっそく、こういう方があの本を購入したとありますよと
小沢さんには、報告をしたのでありますが、ネット文化がこのようになっていなければ、
考えることもできない奇跡のような出会いがあるものです。