小沢信男著作 58 

 小沢信男さん「あほうどりの唄」の第三章は「本と人」というタイトルで書評と
なっています。取り上げられているのは、花田清輝長谷川四郎佐多稲子
関根弘鎌田慧という新日本文学の人々とあまりなじみのない山本駿次朗という
方の「明治東京名所図絵」についてのもの。
 この三章は、「本の立ち話」と話題が重なります。花田清輝長谷川四郎
佐多稲子さんは、「本の立ち話」にも登場します。花田清輝さんについてのもの
の集大成は、数年前にでた大活字版 ザ・花田清輝(上・下) 花田清輝二冊全集
に寄せたものとなるでしょう。長谷川四郎さんについてもみすずの大人の本棚
一冊への解説など、そうとうにたくさんあって、全部まとめると一冊にできる
くらいではないでしょうか。
 長谷川四郎さんについての書評は、小沢さんが長谷川さんについて発表した
ほとんど最初のもののようです。晶文社から刊行された「長谷川四郎作品集」第1巻
というのは、「シベリア物語」とか「鶴」が収録されていました。
 佐多稲子さんについてのものは、いくつかあるようですが、「あほうどりの唄」
には「時に佇つ」についての解説のような文章があります。小沢さんの佐多さんに
ついての文章としては「私の東京地図」を題材としてのものが一番有名であります。
この「時に佇つ」ついてのものもタイトルは「時と地図」というのですから。
「それにつけても、私にまっさきに思い起こされたのは『私の東京地図』でした。
これは作者四十代のはじめに、半生の足跡を東京地図の上に辿った、中仕切りの
自伝ふうの作品です。・・・
 私は焼跡時代の若年のころ『私の東京地図』を読み、そのときはなにか焼失した
街の版画でもみるような気分で、とりわけ前半を愛読したようなのですが、こんど
また読み直して、むしろ後半に興味を持ちます。そして東京の地理と民衆生活の
関係のリアルな把握に、改めて敬意を抱きました。それがどうやらわかるまでに
私も三十年ぐらいかかったわけです。」