毎日新聞書評欄 裏話

 本日に書店に立ち寄りましたら、丸谷才一さんの新刊が眼にとまりました。

蝶々は誰からの手紙

蝶々は誰からの手紙

 新聞の読書欄というので、毎日新聞が頭一つ抜けた存在になったには、丸谷才一
さんの役割があると、この「蝶々は誰からの手紙」の冒頭におかれた対談「今週の
本棚の十一年」にはあります。丸谷才一さんのファンには、よく知られた話では
ありますが、一般的にはそうなのでしょう。
 この対談は、毎日新聞が販売促進用に「今週の本棚」についてのブックレットを
作成して、それに掲載したもので、丸谷さん、和田誠さんが、毎日新聞の編集長と
話をしているものです。( 04年に発表されたもの。)

「 毎日新聞に『新しい形の書評ページ』が誕生してかた、満十一年になります。
大新聞の書評欄の、固苦しく、どこかくすんだ感じをがらりと変えた、と当初から
大好評でした。紙面の構成はそれからほとんどかわっていないのですが、この
三ページが隅々まで丸谷才一さんのアイデアで出発し、今日に至るまで丸谷さんが
編集顧問であることは、一般にあまり知られていませんね。」という編集者の問い
かけに対して、丸谷さんは、次のように語ります。

「 書評欄といえば大新聞の看板のひとつ、その毎週三ページを僕に任せるという
そんなことが果たして可能なのか、とびっくりしました。ただ、ぼくは青年時代
からイギリスの書評ジャーナリズムに親しんできて、ああいうタイプの欄をつくって
日本の書評文化を高めたい、という気持ちが強かったのですね。だから勇躍して
引き受けた。・・・とりあえず、ぼくが評価している書評家を何人かリストアップ
しました。向井敏さんと日高普さん、この二人は真っ先にお願いをしました。
それから伊藤光晴さんと山崎正和さんに連絡を取って、常任ではなく客員として
書いていただくようお願いをしました。」

 毎日新聞朝日新聞を意識して書評欄を作り替えたのはあきらかであります。
「 書評家を委嘱するくらいだから、現代日本文化にとって重要人物えしょう。
 少なくとも毎日はそういう方にお願いしている。その人の著書を杓子定規に
排除し続けるなんて、文化のありようの実情に反している。公正を装った、
悪しき官僚主義ですね。それにたとえば『朝日』あたりは二年か三年で交替ですが、
うちはそんなきまりはなし。そこで、ああいう官僚主義的規制をもしやれば、
山崎正和の本、池沢夏樹の本、伊藤光晴の本を五年も十年も読者に紹介しないことに
なる。」
 
 書評文化を高めたいということで取り組んでいる丸谷さんの書評が、この本には
満載でありまして、そのようなものがおすすきな人には、おすすめの一冊であり
ます。