最近手にした本 3

 最近手にした本であります。新刊で購入したものにはちくまのものが多いようであり
ます。

快楽としての読書 日本篇 (ちくま文庫)

快楽としての読書 日本篇 (ちくま文庫)

快楽としての読書 海外篇 (ちくま文庫)

快楽としての読書 海外篇 (ちくま文庫)

 単行本で刊行されたものを再編集した文庫オリジナルですが、単行本未収録のものが
収録されているというのがよろしでしょうか。かっては「週刊朝日」で、最近は「毎日
新聞」が活躍の場でありました。当方が最初に感心した丸谷才一さんの書評はなんで
ありましたでしょうか。初出一覧がなくて、それぞれの書評のあとに掲載情報がある
のでこうした疑問にこたえてくれないのが残念。丸谷さんの書評集といえば、やはり
大和書房からでていた「遊び時間」でありましょう。この文庫には「遊び時間」と
「遊び時間3」から書評を収録とあるので、あれっ「遊び時間2」はどうしたと思って
元版を手にしてみましたら、あとがきに次のようにありました。
「今回は書評ははぶきましたが、そのかはり別の形式のいろいろのもの(たとへばコラ
ム、たとへば英文学関係の紹介、たとへば史談めいた随筆)がはいってゐて、一人の
小説家の遊び時間が、どういふものなのか、わりによく判っていただけるはずだと
思ってゐます。」
この「遊び時間」は中公文庫にはいっていて、いまでもアマゾンなどでは入手が可能の
ようです。
遊び時間 (中公文庫 A 103-3)

遊び時間 (中公文庫 A 103-3)

 次の文章は書評ではありませんので、今回のちくま文庫には収録されていませんが、
こういうのが丸谷節でありますね。
「誰も里見とんを読まない。今日、彼は小津安二郎の映画の原作者として一般に意識
されてゐるにすぎないだろう。ちょうど滝沢馬琴東映映画によって人々に親しまれて
ゐるのと同じように。先日ある大新聞の書評欄は彼の短編小説集の書評をかかげたけれ
ども、彼特有の振仮名たくさんなスタイルをからかふだけで、彼の作品の魅力と本質に
ついては触れてゐなかったやうに記憶する。誰も、さう、大新聞の書評者さへ里見とんを
読まない。」
1961年1月に、丸谷さんが篠田一士さんなどとやっていた「秩序」という同人誌に発表
したものですが、この時35歳くらいで、肩に力が入っているのがいいことです。
 この「遊び時間」には「家の歴史」というエッセイがありまして、ここには植草甚一
さんから英訳の「百年の孤独」を借りて、それとでたばかりの鼓訳で読んで感銘を受け、
林達夫さんから「近頃おもしろい小説はあるかい」ときかれたときに、これをおすすめ
して「たぶん1960年代の最高の長編小説でせうね、世界中で」という、興味深い話など
もあるのですがね。
 書評としての芸は、最近のほうがよくなっているのでしょうが、今回のちくま文庫
は、初期のものすこし少ないようにも思います。これはちょっと残念。